特集、その他

ゲーセンの体感筐体もGIGABYTE製に?AORUSブランドが目指すゲーミングの方向性

巨大VRマシンは販売も視野に開発 text by 石川 ひさよし

 今年開催されたCOMPUTEXのGIGABYTEブースは、PCパーツメーカーらしからぬ構成となっていた。

 ブースの主役はアミューズメント施設にあるような体感型の巨大なVRマシンで、そのまわりにノートPCなどを展開。PCパーツはほとんど展示されておらず、PCパーツの新製品はメディア向けのプライベートブースで紹介されていた。

 しかも、この巨大なVRマシンはイベントのデモ用に製作したものではなく、同社のゲーミングブランド「AORUS」の製品として市販する予定だという。

 ゲーミングブランド「AORUS」を使い、GIGABYTEは今後何を行おうとしているのだろうか。現在の製品展開なども含め、担当者に話をうかがった。

GIGABYTEが「AORUS」でアミューズメント分野に進出!? 体感型のVRマシンを販売予定

大型筐体を採用したAORUSのVR体感マシン「AORUS 720°Motion Simulator」
GIGABYTEの川村氏(左)とSen氏(右)

――今年のGIGABYTEブースは従来とは少し変わった展示のように感じました。大型のVR筐体がメインになっていますし、何か意図があってのことなのでしょうか。

[GIGABYTE]COMPUTEXでの我々のテーマは「AORUSを広めること」です。ゲーミングブランド「AORUS」では、それをストレートに伝えられる目玉としてここ数年はVR体感マシンの展示を行っております。今回は360°×2軸対応の「720°モーションシミュレータ」です。

――これは今回のCOMPUTEXに合わせて開発されたものなのでしょうか?

[GIGABYTE]実は販売可能なVRマシンという前提で開発しております。すでに期間中、アミューズメント施設からの引き合いもあり、販売に向けて調整中です。ちなみに、150kgの体重まで対応する本格的な設計です。

――PCメーカーであるGIGABYTEがアミューズメント機器に参入するということでしょうか?

[GIGABYTE]アミューズメント施設の業務用ゲーム機は、すでにPCの時代へと移り変わってきています。ただし、アップライト筐体については、多くのメーカーが参入していることもあって価格競争が激しくなってきています。そのような中、GIGABYTEにしかできない付加価値を考えたところ、答えがVRマシンとなったわけです。

――VRマシンでのGIGABYTEの強みはどこにあるのでしょうか?

[GIGABYTE]ビデオカードではご存知のとおり、航空宇宙級のコーティングを採用しています。PCBにホコリや湿気、腐食に強いコーティングを施すことで、アミューズメント施設のような過酷な条件下での安定動作を実現します。VRマシンは、GIGABYTEのハードウェアを用いればここまで出来るというもっともよいデモンストレーションになるわけです。

【AORUS 720°Motion Simulatorの動作の様子】

GIGABYTEのゲーミングブランドは全て「AORUS」に統一

AORUSのイメージキャラクターを立体化した像も展示されていた
GIGABYTEのゲーミング製品は現在AORUSに統一されている

――「AORUS」ブランドが誕生した背景について教えてください。

[GIGABYTE]「AORUS」は2014年にノートPCで採用したのが始まりです。当時はゲーミング製品をどのようにブランディングしていくのか明確になっておらず、2015年にはマザーボードでG1 Gamingを、2016年にはビデオカードでXtreme Gamingという名称がついていました。AORUSと合わせると3つのゲーミングブランドが並列していたのです。この3つのブランドの中から、一つに統一しようという動きが生まれました。

 AORUSは元ビデオカードチームのトップが作ったブランドです。もっとも、「Gaming」という名称は一般的過ぎ、G1 GamingもXtreme Gamingも製品名が長くなりすぎる部分もありました。また、「Gaming」が他社でも採用されていることもありまして、AORUSに統一しようと決まりました。ノートPCのAORUSが海外で人気が高かったこともあります。

――AORUSというのは造語でしょうか? どのような意味なのでしょう?

[GIGABYTE]元はエジプト神話のホルス(Horus)です。ロゴも隼っぽいでしょう? AORUSが目指す「すべてのゲーミングを一つにしたい」という願いは多様性のあるホルスと共通するところがあります。その上でホルス神は"戦いに負けたことがない"、この願掛けでもあります。HをAに変えたのは、一番を目指すという願いもあります。

AORUSの源流であるノートPCも3モデル展示されていた。X9は17.3型でSLI対応、X7 DT v7は17.3型で従来のv7からスペックを強化、X5 MDは15.6型にGeForce GTX 1080や4Kパネルを搭載する

幅広い製品ジャンルをカバーするAORUS代表的なビデオカードは基板裏の銅製ヒートシンクでより「冷える」設計に

AORUSブランドの製品
AORUSモデルのハイエンドビデオカード

――現在AORUSブランドはどのような製品ジャンルがありますか?

[GIGABYTE]ノートPC、マザーボード、ビデオカード、ケース、電源、キーボード、マウス、マウスパッド、CPUクーラー、そして新たに外付けGPUボックスが加わりました。

――それでは個別の製品についてお聞きします。現在ビデオカードにはAORUS製品とスタンダード製品がありますが、AORUSビデオカードの特徴とはどのような部分なのでしょうか。

[GIGABYTE]見分けるポイントはカードの裏にあります。AORUSにはGPUチップの裏に銅製のヒートシンクを設けています。これを装着することでGPU温度は2~3℃低下しまして、これが昨今のGPUが搭載している自動OC機能においても、ブースト時間がより長く持続し、ファンの回転数も10%程度抑えることができるという結果が得られております。

――搭載GPUのグレードによる違いはあるのでしょうか?

[GIGABYTE]この銅製ヒートシンクですが、GPUのサイズに合わせたものを装着しています。AORUSモデルは全て装着していますが、XtremeグレードのハイエンドGPUでは大型のものを、それよりも下位のグレードの製品では若干サイズが小さくなります。また、ExtremeグレードではAORUSのマーク部分にLEDが搭載されています。

「AORUS」ビデオカードの裏面を見ると、バックプレートのGPU裏部分に銅製ヒートシンクがある
搭載するGPUによって銅製ヒートシンクのサイズも変わる。ハイエンドGPUでは大きなものが、ミドルレンジGPUではやや小ぶりになる

AOURSブランドで登場するGIGABYTEのGPU外付けボックス小型のGeForce GTX 1070搭載済みで持ち運びしやすいコンパクトサイズ

AORUS GTX 1070 GAMING BOX
映像出力はビデオカードのものを使用。インターフェースはThunderbolt 3(Type-C)入力と、USB 3.0×4ポート。端子の上にあるのが電源。Thunderbolt 3端子からノートPCなどにPower Deliveryすることも可能

――外付けGPUボックスはこれまでも試作品が展示されていましたが、デザインが変わりましたね。

[GIGABYTE]これまでの試作品では大型のハイエンドビデオカードを対象に開発され、可能な限り小型化するため煙突型なども検討しました。今回の「AORUS GTX 1070 GAMING BOX」ではコンパクトさを優先してデザインしたモデルです。机上でノートPCの横に置いてもジャマにならず、LANパーティなどにも持ち込みやすいサイズを意識しました。こうした考えから、弊社のGeForce GTX 1070 Mini ITX 8Gを搭載する前提で開発したのが本製品です。

――コンパクトにしたい、という点ではモバイルGPUを採用する案はなかったのですか?

[GIGABYTE]もちろんMXM規格のカードを用いればさらに小型化することも可能でしょう。しかし、デスクトップ向けGPUを用いれば、アップグレードパスを残すことができます。一方で、MXMカードを入手することは容易なことではありません。

――搭載するビデオカードはGeForce GTX 1070 Mini ITX 8Gとまったく同じなのでしょうか?

[GIGABYTE]はい。同じです。

――電源はGeForce GTX 1070を搭載しても十分な出力があるわけですね。

[GIGABYTE]もちろんです。さらに、4系統あるUSBポートのうち、オレンジ色のポートはQuick charge 3.0に対応しており、スマートフォンなどに電源を供給することができます。また、Thunderbolt 3ポートはUSB Power Delivery 3.0をサポートしており、接続したノートPCなどに100Wまで電源を供給することも可能です。

――PCの動作環境を教えていただけますか?

[GIGABYTE]Windows PCについては、Thunderbolt 3を搭載していることが前提になります。一方、Macについては調整中です。

――「AORUS GTX 1070 GAMING BOX」の価格や発売スケジュールはお決まりでしょうか?

[GIGABYTE]価格は現時点では未定ですが、海外向けにはリリースを出しており、日本市場についてはまだ検討中です。

奥行きを短く詰めたビデオカードに合わせて設計され、机の上に置いてもコンパクト
写真手前がGeForce GTX 1070 Mini ITX 8G
付属のバッグに入れて持ち歩くこともできる

ゲーミングデバイスのLEDイルミネーションなども完全シンクロ製品をAORUSシリーズに統一することで統一感のある環境を構築可能

AORUSブランドで統一することで、LEDをシンクロさせることが可能。LED搭載パーツでも、各社のLED制御への対応が分かれるが、AORUSで統一すれば間違いない

――AORUSのゲーミングデバイスについてもお聞かせください。

[GIGABYTE]現在、英語版が先行するかたちで販売されておりまして、日本語版も今後展開する予定です。

――今回の製品のなかでオススメを教えていただけますか?

[GIGABYTE]キーボードでは「AORUS K7 Gaming Keyboard」、マウスでは「AORUS M3 Gaming Mouse」を展示しています。とくにM3マウスではユーザーからのフィードバックを盛り込み、従来モデルの一体型スイッチからセパレートスイッチにし、合わせてデザインも変更しています。また、AORUSシリーズでLED発光機能のシンクロ設定が可能になりました。

――LED発光については各社入り乱れ、シンクロ機能などはとくにアピールしないと分かりづらいところです。どのようにアピールされていくおつもりでしょうか?

[GIGABYTE]展示機のように、ゲーミングデバイスもAORUS製品および対応パーツと合わせて展示するのがよいと考えています。また、パーツジャンルを問わずAORUSシリーズで構成するような分かりやすい売り場にするといったことも検討しています。

「AORUS K7 Gaming Keyboard」。フレームレス風のデザインで、フルキーボードとしては省スペース性に優れる
展示品のキースイッチは赤軸だった
「AORUS M3 Gaming Mouse」。シンプルなデザインで、ユーザーのフィードバックを盛り込んだ

AORUSブランドで一つにまとまるGIGABYTEチーム間の協力からこれまでに無いものが生まれる?

 PCパーツの総合メーカーは、マザーボードチームとビデオカードチームが競い、そしてそれぞれが独自に開発を進めるケースが多い。一部機能が統合されることがあっても、多少チグハグさを感じるときがあり、それはGIGABYTEも同様だった。

 しかし、「ゲーミング」というジャンルの立ち上がりとともに、その流れも変わってきた印象だ。とくにLED発光機能などは、マザーボードとビデオカードが、それぞれ独自に発光していたら統一感がない。GIGABYTEはAORUSによって、ひとつにまとめられた印象だ。

 AORUSシリーズで仕様を統一するだけでなく、VRマシンのようにチーム間の協業以上のものが出てきた点は興味深い。他社でも異なる製品ジャンルのチーム間で協力する動きは見られるが、GIGABYTEは先んじて次の一手を打ってきた印象がある。ここが他社と比べるとちょっと独特な方向性で、GIGABYTEらしさを感じられる部分だ。

[制作協力:GIGABYTE]