2016年11月末に顧客情報の流出が発覚し、同年末に上場申請を取り下げた自動運転ベンチャーのZMP。年明けには自動運転分野でのDeNAとの提携解消も発表しており、なにかと話題が集まっている。渦中の社長が日経ビジネスのインタビューに応じ、一連の経緯と今後の展望について語った。

(聞き手は齊藤 美保)

日経ビジネスのインタビューに答えるZMPの谷口恒社長(撮影:的野弘路)
日経ビジネスのインタビューに答えるZMPの谷口恒社長(撮影:的野弘路)

まず上場延期について。どのような経緯だったのでしょうか。

谷口:上場を控え、ロードショー(上場前の機関投資家への説明会)が始まる前日に顧客情報の流出に関する報告を受けました。その時は原因究明もできていない状態でしたので、(上場延期に関しては)考えていませんでした。最も忙しい時期だったので、上場に関連するアポイントも65件ほどありました。成り行きを見守るしかないと思っていたのが正直なところです。

 原因を究明した結果、流出したお客様リストが今年5月に流出していたものと判明しました。6月以降、顧客情報を扱うシステムの強化を行っていましたが、ここは一度じっくりとその他のシステムも見直し、強固な情報セキュリティ体制を整備しようと。上場してまた同じことが起きてしまったら、より大きな問題になりお客様にも迷惑をかけてしまうと思い、12月8日に上場延期を決定しました。

12月8日は株式購入の抽選日の前日でした。ギリギリまで上場延期を見極めていたということですか。

谷口:そうですね。複数のセキュリティ会社にお願いし、直前まで原因究明の調査を続けていました。

 いろいろと迷うことはありましたが、僕らは何が何でもこの日に上場する!と思っていたわけではありません。自動運転を広めていきたい、買い物難民などの交通弱者のためにロボットタクシーなどの自動運転を実現させていきたい、という基本理念があります。この理念を実現するためには、上場を延期しても経営上の影響はありません。

 社員に上場延期について話し、もう一度しっかりと考えてやっていきましょうとなりました。上場延期は我々にとってネガティブな決断ではなかったと思っています。社員も理解してくれました。うちは16年も歴史がありますし、自動運転の実現に向けてもまだ先は長いです。

上場延期を決定した理由は、セキュリティ管理の脆弱性という点だけですか。

谷口:はい。セキュリティは全てに関わることです。ここで脆弱性があるというのは、一番ダメじゃないですか。この体制のままで上場していたら、やりたいこと、実現したいことができないと思います。

当局側からも上場を延期するよう言われたのでは。

谷口:一切ありません。もう単純に原因究明をしてくださいと、当局からはそれだけです。ここは自己判断です。上場審査は通っていますから、あとは自分でどう腹をくくるかでした。

お金の為だけの上場ではない

上場はZMPにとってどのようなメリットがあると考えていますか。

谷口:我々のやりたいロボットタクシーは、非常に社会的な意味合いが強いので、株を買って応援してくださる方が全国にいるなんて、本当にありがたいことだと思っています。違うかたちの資金調達方法もありますが、全国にZMPのファンを増やしていく、という意味でも上場は必要だと考えています。

 自動運転ってお金がかかるイメージがありますが、うちの場合そこまでお金はかかっていないんですよ。昔から積み重ねてきたベースもありますし、自前で色々作っているので、現在のフェーズではそんなに驚くほどの投資は必要ありません。

 投資が必要になってくるのは、実際に車両が必要になる2019年、2020年頃です。多くの車をロボットタクシーとして動かしたいと思っていますが、現在のテスト段階では6台とか7台とかのテスト車両で自動運転の基礎固めをしています。

再上場についてはどう考えていますか。

谷口:不満の意見もある一方で、ZMPの理念に共感して頂き「待っています」と言ってくれる人もいます。こういった人たちの期待に応えたいと思っています。ロボットタクシー実現の構想は変わっていませんし、この事業は社会的な意味合いが強いので、社会とつながりができるという意味でも、パブリックな会社になる上場は引き続き検討していきます。

 セキュリティの体制が整えば上場の再申請をしたいと思います。いつ頃かは言えませんが、そんなに先ではありません。急ぎませんが、そんなに長くはかからないと思っています。

 今回、すごい数の(株の購入の)申し込みがあったじゃないですか。それだけ影響があるんだなと痛感しました。ZMP関連株として間接的に影響を与えてしまった銘柄もあり、責任の大きさを改めて感じました。

ZMPに出資をしている米インテルとの間に、「2016年までに上場しなければ出資を引き上げる」との契約が存在していると言われています。事実ですか。

谷口:そんな事実は一切ありません。もちろん確認もしました。そうした株主間の契約も一切ありません。期限などはなく、インテル本体の資金による事業投資です。信用も積み重ねてきていますので、これからもがんばってと応援してもらっています。

DeNAからの提携解消の通告は年末

DeNAとの業務提携解消を1月6日に発表しました。いつ頃決まったのでしょうか。(編集部注:DeNAとは2015年5月に共同出資会社ロボットタクシーを設立)

谷口:昨年末に突然です。これは本当に驚きました。「今年もロボタク頑張ります!」なんて年賀状をDeNAさんに送ったくらいですから。昨年12月26日にDeNAさんが突然来社し、提携解消を告げられました。それまで本当に全く知らなかったんです。いきなり告げられたという感じですね。

DeNAはZMPと提携を解消した同じ日に、日産自動車と自動運転で提携することを発表しました。DeNAの中島宏さん(ロボットタクシーの社長)は、「うちは仏イージーマイルやヤマト運輸、日産など複数社と組んで自動運転をやっていきたいと思っていましたが、ZMPは2社でやりたいという思いが強く、意見が食い違ったので提携解消に至った」と日経ビジネスに明かしています。これは事実ですか。

谷口:色々と背景はありますが、その部分においては概ね、イエスですね。ロボットタクシーって2012年に私が構想して官公庁や様々なメディアを通じて啓蒙活動を行い、2015年2月に小泉進次郎さんへのプレゼンでロボットタクシーの構想を応援しますと言ってくださったのが大きな転機でした。その流れで、我々の活動について賛同してくれたDeNAが「実現に向け、ぜひ一緒やりたい」と途中から参加する形になりました。中島さんが私の所に来て、ぜひ谷口さんの構想を実現させてほしい、と。

 ただ、提携するときに特約がついていて、これが一番しんどいところだったんですけど、ZMP側はDeNAとの独占契約でしたが、DeNA側は自由にいろんなところと契約できる状態でした。不平等な条約なのでこれは絶対に「No」だと言ったのですが、この不均衡は今後解消するよう努力しますと言ってくださったので、それを信じて不平等なままで結びました。お互いが自由に他とやるなら提携の意味がないので、将来もし万が一そういう必要性が起きたなら、その際は提携を解消しましょうという議論をしていました。

 今回、DeNAからある大きな会社と提携するので、両社の提携を解消しましょうと言われました。いや、本当に驚きました。さらに驚いたのは年明けすぐに発表するので理解してほしいと。「ええ、そりゃないよね?」と正直思いました。いくらなんでも突然すぎではないかと。しかも、上場延期したことと結びつけて、世間的にネガティブな印象を与えてしまうこのタイミングに、です。

 まぁ、残念でしたが、悔しいというか怒りの感情は全く生まれてきませんでしたね。ZMPは最後まで信じ切ったので後悔はありません。ここからまた新たにスタートしていきます。うちがやろうとしているロボットタクシー構想は変わらないですから。

上場延期の決定には、この提携解消も関係しているのではないですか。

谷口:全くありません。12月26日に突然通知されましたので。しかしすぐに事情を話したら、社員も分かってくれました。

サービス関連の提携、「常にオープン」

さまざまな企業がこぞって自動運転に参入しています。その中で、ベンチャー企業が単独でやっていくのは難しいのではないでしょうか。大手自動車メーカーと組むことなどは考えていますか。

谷口:あくまでもうちは独立系でやっていきたいと思っています。独立を守り、ユーザーが求めるような機能を提供していきたいと思っています。意思決定の速さやベンチャーならではのチャレンジ精神を守るためには、この独立性を貫くことが必要だと考えています。

 ロボットタクシーが目指しているのは旅客サービスです。一方の自動車メーカーは、ユーザーがお客さんなので運転支援のレベル1や2です。我々が目指すレベル4(完全自動運転:基本的に人は運転しない)にするメリットは自動車メーカーにはありません。BtoC市場におけるレベル4の実現は10年以上かかってしまうと思います。その一方、ロボットタクシーのようなBtoBは専用企業が運用管理し、用途が決まっているので実現は早いのです。

谷口:ロボットタクシーの実現には二つの技術が必要で、一つは自動運転技術。ここはうちの領域です。これまでのテスト走行で一度も事故を起こしたことはありません。もう一つの技術は、タクシーの配車技術です。このニつのコンビネーションでロボットタクシーは実現が可能になります。なので、自動車メーカーとは今後もオープンに付き合い、サービス面で今後色々と(提携など)検討していきたいと思っています。パートナーとの提携に関してはオープンにしています。

 しかし、その前に自動運転の技術を自分たちの納得いくくらいにまで高めたいという思いもあります。実際にサービスで使うレベルになるまで自社でもっていくことが先だと思っています。

 これからは、定期的にZMPの自動運転技術の進捗を発表していきます。2020年に向けてどう近づいているのか、示していきます。今月末から早速そういった機会を設け、どのレベルまで今できているのかをお見せします。

ロボットタクシーを2020年に実現するという目標は変わっていませんか。

谷口:はい。できると思っています。課題はどこまでサービスエリアを拡大できるかということです。過去いろんな大きい変化がありましたが、ZMPはそれを機会ととらえ、大きく成長してきた会社です。結果で示すしかないと思っています。

人材採用の方針について、以前「外国人社員と日本人社員は5:5」としていました。この方針については以前と変わっていますか。

谷口:そのくらいの割合にしたいと思っていますが、現在はエンジニアの6割が外国人です。ちょっと外国人の割合のほうが増えました。

離職率が高いと聞きます。

谷口:それは確かですね。この1~2年です。これはすごく反省しています。私、ここ2年ほど、ほとんど外向けの仕事をしていたので、コミュニケーション不足だった面もあると思います。採用に関しては現場に任せて大幅増員しましたので、ミスマッチも起きてしまいました。ここはこれからしっかりと力を入れていき、ZMPの企業理念に合った人を採用していきたいと思っています。幸い今の社員は、ここ数年で最高のチームだと思いますよ。

 今年は、外回りに割いていた時間を大幅に社内に向けていこうと考えています。製品開発と組織づくりを社員と一緒になってやり、強固なZMPを作っていくところにもう一度力を入れます。今、社内は活気に満ちていますよ。

ツイッター閉鎖の背景

元社員がツイッターでZMPに対して色々と発信していることが話題になっています。

谷口:僕は、言いたい人には色々と言ってもらって構わないというスタンスでした。気が済むまでやればいいと思っていました。取引先など長年付き合っている方には、真実と異なる発言は全く影響ないので。でも、社員には負担かけてしまいますので、この間、自分のツイッターアカウントを閉じました。

 ツイッターをやめてほしいと社内で言われたときは、正直、なんか屈してるみたいで嫌だなって思ったのですが、ここも意固地オヤジになってちゃダメだなと。「谷口さんは強いかもしれないけれど、あのつぶやきを見て落ち込む社員やその家族もいるかもしれない」と言われ、考え直しました。2009年からやっていたツイッターですが、閉じたら案外スッキリとしました。

現在ロボットタクシーの他に、自動運転台車の「キャリロ」やドローン、建機の自動運転など幅広い事業を手掛けています。手広くやり過ぎているのではないでしょうか。

谷口:ほとんどの技術はZMPの自動運転プラットフォームがベースになっています。その延長線上にロボットタクシーとか、建機とかあるんです。ですので、開発陣も商品分野に関係なく行き来しています。一見バラバラな事業を手広くやっているように見えるかもしれませんが、それぞれにシナジーがあるのです。

直近の業績や社員数、今後の事業の見通しなどは?

谷口:2016年12月期の売上高は9億8000万円前後でした。投資先行なのでまだ赤字の状態です。社員数は今、60数人。グループでいうと90人弱です。ZMPの基盤事業の自動車向けADAS開発支援は、世界的にも年々大きく伸びています。また2014年から投資してきた物流ロボットやほかの新製品も売り上げを伸ばし、今年も過去最高の売上記録を更新できると思っています。ロボットタクシー向けは売上高の約2割を占めていますが、今年度以降はロボットタクシー社以外の様々なサービス企業に対してもオープンに販売ができるようになりますので、更なる需要を期待しています。

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