中国の「フィンテック」が日本のはるか先を行くのは当然だった

取引額も投資額も約30倍!
野口 悠紀雄 プロフィール

蛙跳び現象とは

新興国や開発途上国で用いられている電子マネーの仕組みは、銀行を中心とする日本の決済制度より、ずっと優れている。

この現象は、「リープフロッグ」(蛙跳び)と呼ばれるものだ。これは、技術革新によって、新しい技術を取り入れた体制が、発展段階上のある段階を飛び越えて進歩してしまうことを指す。その結果、「後なるもの先になるべし」という現象が起きるのだ。

リープフロッグの例として、中国における電話が挙げられる。中国の産業化は通信インフラの主流が携帯電話の時代になって始まったため、固定電話の時代を飛び越えて、いきなり携帯電話が普及した。

もう少し古い例で言えば、最初に産業革命に成功したイギリスが蒸気機関やガスの技術にとらわれて、電気への対応が遅れたことが挙げられる。遅れて産業化に着手したドイツ、アメリカ、日本は、蒸気機関の時代を飛び越えて電気の時代に入った。そしてイギリスを追い抜いた。

金融や決済システムについて言えば、現在の日本の金融システムは、第2次大戦中に整備された。これは、銀行中心の間接金融の仕組みである。それが戦後に生き残って、高度成長に大きな役割を果たしたのである。

この金融システムの特性は、「ブランチ・バンキング」だ。つまり、銀行が全国津々浦々に支店を設置し、国民から預金を吸収するという仕組みである。

日本は、このブランチ・バンキングのシステムを開発途上国に対しても輸出しようとした。しかし、今起きている状況は、開発途上国がブランチ・バンキングの段階を飛び越えて、その先の電子マネーの時代に突入していることを示している。

世界銀行の統計によると、銀行口座の保有比率は、インドネシアやフィリピンで3割程度だ。クレジットカードは、シンガポールとマレーシアを除くと、東南アジアで数%どまりだ。従来型の金融サービスの普及が遅れていたために、かえって新しいサービスが急速に広がることになったのだ。

その半面で、日本は古いシステムにとらわれて身動きができなくなっている。そして、霞ヶ関や大手町の企業や人々は、いまだにその古いシステムの世界で生き、活動しているのだ。

中国企業の躍進

中国でも電子マネーが急速に普及している。中国における電子マネー取引額は約150兆円と言われ、約5兆円の日本と比べると、30倍以上も差がある。

2大サービスは、阿里巴巴(アリババ)集団の「支付宝(アリペイ)」と騰訊控股(テンセント)の「微信支付」だ。これらは、プリペイド型の電子マネーだ。アリペイは、中国モバイル決済の約8割を占めている。

〔PHOTO〕gettyimages

アリペイは、アジア、ヨーロッパ、そしてアメリカにも急速に進出している。

フィンテック(金融業務でのITの活用)の分野における中国企業の躍進ぶりは、目覚ましい。「Fintech100」というレポートによると、世界のフィンテック企業のトップは、アリペイである。

アクセンチュアのレポート「フィンテック、拡大する市場環境」によると、フィンテック分野に対する中国の投資額は、日本の30倍程度に達する。この分野では、日本は中国にはるかに引き離されてしまっている。

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