市場動向調査企業の台湾TrendForceは3月22日、中国の半導体産業に関する最新の分析を発表した。それによると、中国のICメーカーは、現在、中国内に建設を進めている半導体工場が2018年後半に一斉に生産を開始する予定であることを受け、世界中から上級管理職やエンジニアを積極的にヘッドハントしているという。

中国に対する諸外国政府は、中国が国内だけで自給自足するためのICサプライチェーンを構築するという計画に懸念を示しており、中国企業が海外企業を買収することで技術、市場、その他の資源を獲得しようとする試みには抵抗していると同社は指摘している。事実、国営の清華紫光集団(Tsinghua Unigroup)が提案したいくつかの買収案件は、各国政府の規制や干渉により失敗に終わったほか、中国福建省の福建芯片投資基金(Fujian Grand Chip Investment Fund)による半導体製造装置メーカーの独Aixtronの買収計画は、米国のオバマ大統領(当時)が、その米国子会社の買収を禁止する大統領令を2016年12月に出したため断念する結果となっている。

こうした動きから、中海の半導体メーカーは次なる手段として、海外の主要半導体メーカーからベテランマネージャーやエンジニアをヘッドハントし、技術情報やノウハウを吸収する方向に舵を切りつつあるという。かつて韓国勢が日本の技術者から技術情報を吸収したやり方の再現である。

表1 台湾の半導体メーカーから中国の半導体メーカーに最近転職した台湾で著名な上級管理職クラス人材の例。表の左欄から現在の中国の雇用主、転職者氏名、以前の台湾の雇用主、専門領域(メモリ/IC設計、製造、工場運営など) (出所:TrendForce)

ヘッドハンティングの中心となっているのは、製造プロセス開発と半導体設計に携わる人々であるという。現在、中国で11個の300mmウェハファブの建設が進められており、これらのファブがフル稼働ともなれば、中国での300mmウェハの生産能力は月産90万枚以上増加することが見込まれている。また、長江存儲科技(Yangtze River Storage Technology:YRST)、福建省晉華積体電路(Fujian Jin Hua Integrated Circuit:JHICC)、合肥長金(Hefei Chang Xin)、清華紫光集団(Tsinghua Unigroup)の南京工場を含む中国の主要半導体メーカーは、DRAMと3D-NANDの生産に取り組もうとしているため、必然的にメモリ分野の専門家がヘッドハントの標的となっているという。TrendForceでは、建設中の多くのファブが2018年後半に稼動する予定であるため、2017年中の人材獲得競争が熾烈を極め、結果として、中国国内の半導体エキスパートたちの待遇の改善も進むと見ている。

さらにTrendForceでは、現状のままの勢いが続けば2020年にはハイレベルの技術者は10万人中国内だけで不足すると予測している一方、中国におけるIC産業の発展に向けた中国国内での人材育成による質の向上と人数の底上げにはまだまだ改善の余地があるとみており、教育訓練プログラムの拡充、および座学ではない実務を経験できる場を用意するなどの方法が必要になってくるとしている。

なお、TrendForceでは、ヘッドハンティングの取り組みは、半導体の製造部門や設計部門のみならず、今後はサプライチェーン全体に及ぶ可能性も指摘している。製造装置や材料は中国の半導体産業でももっとも弱い部分であるが、ウェハの国内での製造などが可能となれば、国際的な価格の上昇などの影響を受けにくくなるためで、今後、さまざまな憶測も含め、半導体の周辺産業を含めた中国による海外からの人材獲得競争が拡大していく可能性がでてきたといえる。