焦点:需給良好な鉄鋼・アルミ業界、神戸鋼流出分の引受余地乏しく

焦点:需給良好な鉄鋼・アルミ業界、神戸鋼流出分の引受余地乏しく
 11月6日、データ改ざん問題の渦中にある神戸製鋼所から、他の鉄鋼・アルミ各社に需要がシフトする懸念が拭い切れない中、業界内では、大きく需要が動く可能性は低いとみられている。写真は神戸製鋼の看板、10月神戸で撮影(2017年 ロイター/Thomas White)
[東京 6日 ロイター] - データ改ざん問題の渦中にある神戸製鋼所<5406.T>から、他の鉄鋼・アルミ各社に需要がシフトする懸念が拭い切れない中、業界内では、大きく需要が動く可能性は低いとみられている。
国内外の堅調な需要や中国の設備廃棄などにより、直近の鉄鋼・アルミ業界では需給が急改善。稼働率が高水準となり、神戸鋼からの需要流出を受け止める「余力」が乏しくなっている。短期的にはこうした状況が神戸鋼の経営を下支えしそうだ。
<中国からの鋼材輸出減、デマンドプル型の価格上昇>
新日鉄住金<5401.T>が発表した2017年4―9月期の連結純利益は、前年同期比9倍に膨らんだ。JFEホールディングス<5411.T>の純損益も、前年同期の84億円の赤字から870億円の黒字へと転換した。通期の純損益も前年比2倍となる見通し。
大手2社の好業績の背景には、需給環境の好転がある。自動車生産では国内販売、輸出とも堅調なことから8月に前年同月比10カ月連続増となったほか、2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向け建築需要は底堅く、都市再開発案件の増加もあり、鉄鋼需要は強含みで推移している。
一方、長く業界を悩ましてきた中国からの輸出鋼材が減少し、鋼材市況のプラス要因となっている。中国政府が違法な鋼材「地条鋼」の撤廃に取り組んだことで供給が減少。中国国内向けでの販売が増え、輸出が減少している。
SMBC日興証券・アナリストの山口敦氏は「13年以来のデマンドプル型の上がり方になってきた。原料が上がったきたから仕方なく上がるというコストプッシュ型ではなく、需要にタイト感が出てきて、価格が上がっている」と指摘。そのうえで「来年の初頭くらいまでは続く」との見通しを示している。
4―9月期の新日鉄住金の平均鋼材価格は1トンあたり8万3500円(前年同期は6万8000円)。2014年度下期以来の高水準だという。下期平均は8万5000円で計画しており、栄敏治副社長は「鋼材価格は、足元のレベルが継続する」とみている。
<短期的に大規模な切り替えは想定せず>
こうした好環境下で発覚した神戸鋼の製品データ改ざん問題。「信頼度はゼロに落ちた」(川崎博也会長兼社長)という神戸鋼に対して、どの程度の顧客離れが生じるかが注目されている。
神戸鋼の決算では、18年3月期に経常利益ベースで100億円、不正の悪影響を織り込んだ。30億円はアルミ・銅事業部門、70億円は鉄鋼事業などへの影響となる。
神戸鋼の梅原尚人副社長は「今回の問題に直接起因しなくても、アルミ・銅以外、不適合品ではないところでも、受注できないことが想定される」と話す。
神戸鋼幹部は、現時点で大きな取引の切り替えは起きていないものの、営業マンが顧客を回る中で、一定の受注減は避けられないとの感触を得ていると明かす。
新日鉄の栄副社長やJFEホールディングスの岡田伸一副社長は、神戸鋼のデータ改ざん問題に関連して、足元で受注が増えていることはないと述べている。岡田副社長は、仮に神戸鋼からの注文切り替えで需要が増加した場合でも「エネルギー関連とパイプ以外はフル生産なので、(受け入れは)なかなか難しい」との見方を示している。
こうした状況は、アルミでも同様だ。UACJ<5741.T>には、いろいろな分野で少しずつ神戸鋼からの代替需要が来ているという。ただ、岡田満社長は「キャパシティとして厳しい分野もあれば、そうでない分野もある。一点一点きちんと話を聞いたうえで、対応できるものは対応する」と述べるにとどめている。
日本軽金属ホールディングス<5703.T>は、具体的な話は来ていないとしたうえで「アルミは顧客との品質のすり合せがある。品質確認、スペックの合わせが必要になる」(高橋晴彦経理部長)とし、短期的な対応は難しいと指摘。
さらには、多品種・小ロット・短納期で事業を展開している同社は「プロダクトミックスをもう少し絞って作りやすい単位で作ればもっとアウトプットを増やせるが、今は余力の面で対応できない」とも述べ、神戸鋼問題の影響は、下期の業績予想には一切織り込んでいないことを明らかにしている。
6日にはトヨタ自動車<7203.T>が、10月8日に神戸鋼から改ざんがあったと公表された銅製品を除く国内購入分で、仕入れ先経由も含め、車両の品質・性能がトヨタの基準を満たしていることを確認したと発表。安全性については続々と確認されている。しかし「安全性」と「コンプライアンス」は別の議論だ。
三菱重工業<7011.T>の小口正範常務は、開発中のジェット旅客機「三菱リージョナルジェット(MRJ)」の量産機で、神戸鋼製の部品を使い続けるかについて「このままいくか、あるいは、(調達先を)変えていくのかは、当然、検討の俎上(そじょう)に上がると思う」と述べている。
川崎重工業<7012.T>の金花芳則社長も「神戸鋼の中で、原因と対策を詰めると聞いている。その中身を見て、これから検討したい」としている。
信頼が大きく傷ついた中で、長期的に神戸鋼からの製品切り替えのリスクは残り続ける。さらに、米司法省からの罰金などが多額になることや、日本工業規格(JIS)の認定取り消しが他の生産拠点に広がることなどが、引き続きリスクとなっている。

清水律子 取材協力:大林優香 編集:田巻一彦

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