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【特集】「ワイヤレス給電」実用化レースが始まった―EVシフト果実は誰が <株探トップ特集>

ニチコン <日足> 「株探」多機能チャートより

―「充電インフラ問題」解決に向け開発競争、走行中給電も視野に―

 フランスとイギリスが2040年までにガソリン車やディーゼル車の販売を全面的に禁止する方針を打ち出した。世界的に厳しさを増す環境規制を背景に、エンジン搭載車から電気自動車(EV)へのシフトはさらに加速しそうだが、EV普及の壁となっているのが頻繁な充電が必要なこと。この課題を克服するひとつの手段として関心が高まっているのが、EVを駐車しておくだけで充電できる ワイヤレス給電システムで、今後、巨大な市場が立ち上がる可能性がある。

●現在の充電インフラの問題点を解決する技術

 バッテリーの性能向上や充電時間の短縮化などを追い風に、欧米の自動車メーカーをはじめ、これまでハイブリッド車(HV)プラグインハイブリッド車(PHV)燃料電池車(FCV)を主軸としてきたトヨタ自動車 <7203> もEV開発を本格化している。一方で、EV普及のカギを握る急速充電インフラは、09年末の95ヵ所から17年1月時点では約7000ヵ所(経済産業省の資料より)に増えているものの、自宅の近くに充電器の設置がなかったり、自宅で充電用のコンセントを確保することが難しかったりするケースも少なくない。また、EVにつなぐ充電ケーブルは太くて重く、着脱に手間がかかることもユーザーの大きな負担となっている。

 そこで、自動車メーカーなどが着目しているのが、充電の際にケーブルを介する必要がなく、充電器の上に自動車を駐車するだけで充電できるワイヤレス給電システム。電気的接点を持たないことから安全に充電でき、水がある環境でも利用できるといったメリットがある。既にトヨタが14年に実証実験を行っているほか、ホンダ <7267> や三菱自動車工業 <7211> なども実用化に向けた取り組みを推進。総務省は14年に公表した報告書で、ワイヤレス給電システムの国内EVへの搭載率が20年に20%、30年に50%になると予測しており、今後の成長が期待できる市場として各社の研究開発が熱を帯びている。

●ニチコンは米クアルコムとライセンス契約締結

 現在、EVやPHV向けのワイヤレス給電システムに注力している企業のひとつが米通信技術関連大手のクアルコムで、ニチコン <6996> は7月25日に、同社とライセンス契約を締結したことを明らかにした。具体的にはニチコンが培ってきた車両側の車載充電器やインフラ側の急速充電器などの技術をもとに、クアルコムのワイヤレス給電技術「Qualcomm Halo」や異物検知などシステム全体を制御する通信技術を活用して、ワイヤレス給電システムを商品化するとしている。

 また、ワイヤレス給電技術を持つ米ワイトリシティ社とライセンス契約を結び、11年から開発に着手しているIHI <7013> の動向にも注目しておきたい。IHIは16年1月から3ヵ月間、EVやPHV用普通充電器の電力に相当する3.3キロワットでの給電実証実験を戸建住宅で実施するなど早期実用化を目指しており、今後は単に「ワイヤレス給電システムを住宅に置くこと」だけでなく、グループのモビリティー関連技術を活用することで街・生活空間がより快適となるシステムの構築を進める意向だ。なお、米ワイトリシティ社は今年2月に、日産自動車 <7201> と協力関係契約を結んでいる。

 これ以外では、昭和飛行機工業 <7404> [東証2]が電動バス・トラック向けのワイヤレス給電システムの開発に成功しているほか、古河電気工業 <5801> は独自のワイヤレス電力伝送システムを開発済み。ダイフク <6383> やダイヘン <6622> は無人搬送車用ワイヤレス給電システムを手掛けていることから、EVへの活用が期待されている。

●東洋電は「走行中給電」の実車走行に成功

 EVの弱点である航続距離の短さを解決する方法として期待される「走行中給電」に取り組んでいるのが東洋電機製造 <6505> だ。同社は4月に、東京大学大学院および日本精工 <6471> との共同研究で、世界で初めて道路に敷設したコイルからインホイールモーターへの走行給電による実車走行に成功したと発表。実用化されれば、高速道路での走行中の給電などが可能になり、EVの弱点克服につながるとみられている。

●戸田工、田淵電機、サイバネットなどにも注目

 効率的な送電を実現するためには関連部品や電磁界の解析・測定などが欠かせず、それらを手掛ける企業にもビジネスチャンスが訪れそうだ。放射ノイズを抑制するフェライトシートを扱う戸田工業 <4100> や北川工業 <6896> [名証2]、電磁ノイズ対策製品を各種取り揃える岡谷電機産業 <6926> 、ワイヤレス給電チップセットを販売するローム <6963> 、ワイヤレス給電の送電用ICや受電用ICをラインアップしているルネサスエレクトロニクス <6723> 、ワイヤレス給電コイルを市販している田淵電機 <6624> に注目。

 電磁界を解析するためのソフトウエアを展開しているサイバネットシステム <4312> や、ワイヤレス給電用の部品・回路の測定機器を提供するエヌエフ回路設計ブロック <6864> [JQ]も関連銘柄として挙げられる。

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