• アイティメディア株式会社
  • リードジェン事業本部 編集局 副局長 兼 TechTargetジャパン編集長
  • 垣内 郁栄

会員数80万人超!アイティメディアのリードジェン事業、10年にわたるその歩みとは

〜広告中心のビジネスモデルから脱却し、4つの会員制メディアで全社売上の43%を生み出すアイティメディアの「リードジェン事業」。10年におよぶ、その成長ストーリーを公開〜

ソフトバンクグループ初のオンライン出版企業として、IT分野の情報発信を1999年から展開する、アイティメディア株式会社。

もともとWeb広告をその主な収益源としていた同社は、2006年より「リードジェン事業」を開始。インターネット上でBtoBの見込み顧客(リード)を発掘し、提供する同サービスは急成長を続け、現在は同社の売上の43%を占めるようになった。

その母体になっているのは、TechTargetジャパン、キーマンズネット、TechFactory、そしてITmediaマーケティングが保有する、延べ80万人を超える会員のデータベースだ。

今回は、リードジェン事業本部で編集局副局長、およびTechTargetジャパンの編集長を務める垣内 郁栄さんと、リード研究所の所長を務める小柴 豊さんに、その変遷について、詳しくお話を伺った。

広告中心のビジネスモデルから、「リードジェン」事業へシフト

垣内 アイティメディアでは、2006年から「リードジェン事業」を展開しています。弊社の運営するWebメディア上でBtoBの「見込み顧客」を発掘し、お客様の営業機会の創出に貢献することがミッションです。

以前は、弊社の主な収益源は広告でしたが、現在は売上の43%をリードジェン事業が占めるようになりました。リードジェン事業として会員制の4つのメディアを運営していますが、すべての会員数を合わせると、延べ80万人を超えています。

▼アイティメディアの運営する各メディアの棲み分け(※画像はSELECK編集部が作成)

売上成長の背景には、このように、会員数を順調に伸ばせてきたことがひとつ挙げられますね。

最初は、メディアもTechTargetジャパンだけでした。その後キーマンズネットなどが加わって、それぞれのメディアの会員数が伸びていったことで、リードジェンの母数が大きくなっていきました。やはり会員の基盤が必要なビジネスモデルなので、そこを伸ばすことにはずっと注力しています。

小柴 それに加えて、オペレーションの部分を改善したり、きちんと営業案件につながるようなリードを提供するための細かい工夫を積み重ねて、いまがあるという感じですね。

この事業をもう10年ほど展開していますが、ある一時期までは、「リードが100件ほしい」というお客様に、100件納品しました、で終わっていたんですよ。

しかしここ数年で言うと、それだけですとなかなか、お客様側のマーケティング担当も社内で評価されなくなってきていて。

ただリードをお約束通り納品しました、というだけではなく、お客様のビジネス機会の創出にきちんと貢献できるように、私たちのミッションも変わってきています。

ページビューより大切なものとは?「ストック型」の記事を目指す

小柴 会員数を増やすには、色々な方法がありますよね。例えば「登録してくれたら何かが当たります」というようなキャンペーンだったり、登録者に紹介を促したり。

しかしそういった方法で新規会員を取得しても、すぐに退会してしまうことも多く、あまり資産にならないんです。

それよりはやはり、「このコンテンツを読みたいから、名刺情報を差し出してでも登録したい」と思っていただけるかどうかが重要です。

誰が見ているのかわからない莫大なページビューよりも、ちゃんと「この会社のこの人」が登録をしてくれた、と胸を張って言えることが大切です。ですので、コンテンツ力はかなり問われると思っています。

広告の場合は、シンプルに空き枠を売って終わりなので、そのあたりの感覚は全然違いますね。こちらが納品したリードが、お客様のビジネスの中できちんと活かされなければ、継続してもらうことは難しいので。

垣内 コンテンツに対しての評価をどのように行っているかというと、会員の、6ヶ月間のユニークブラウザ数で集計しています。

6ヶ月という長めのスパンで見ることで、新規で登録してくれた方がこのメディアに対してきちんとファンになってくれているか、といったことを見ることができます。


そして発信する情報としては「新しくIT製品を導入するときに、その選定に役立つ情報」を提供するということを意識しています。

TechTargetジャパンでは基本的にニュース記事を扱うことはありません。面白いとか、バズになる、といった方向では記事は作らないですね。

良い記事だと思われれば、すぐに話題にはならなくても、だんだん外部リンクが貼られたりして、オーガニックからの流入が増えて長く読み続けられるんですよ。

理想の記事は、そのように「ストックされる」ものだと考えています。

「編集記事」と「タイアップ記事」という2種類のコンテンツ

垣内 コンテンツを制作する編集局は、現在17名です。4つのメディアを合わせると、年間でおよそ7,000本の記事を配信しています。

我々は、コンテンツをふたつに分けています。ひとつは「編集記事」と呼んでいるもので、編集局が作る、読者のニーズに基づく記事です。

もうひとつが、クライアントから情報提供を受けて、リードを獲得するために制作する「タイアップ記事」です。

編集記事は、記事全文を読んでいただく際に、弊社のメディアへのログイン、または、新規会員登録をお願いしています。

例えば最近、会員登録数が多かったのは、昨年の12月に出した統合脅威管理(UTM)の主要ベンダーの比較記事です。

製品の機能や評価の細かい比較の部分を、編集局制作のホワイトペーパーで提供しております。

▼編集局が独自に制作した比較記事の一例


※実際の記事はこちら

こういった記事は編集記事なので、紹介しているベンダーからの広告出稿や意向には関係なく、完全に読者目線で書いているものになります。

弊社の場合、営業部と編集局がしっかり分かれているので、読者が求めている情報だと判断できれば、書かせてもらっていますね。

こういった記事を書くには、実際にそれぞれのサービスを使ったり、情報を詳細に集めたりしなければならないので、コンテンツ作成はかなり大変です。

ただ、だからこそ価値もありますし、編集局制作のホワイトペーパーをダウンロードしてくださる方も多いんですね。

10年間で、リードの「質」に求められるレベルが上昇

小柴 タイアップ記事は、獲得したリード情報に対してお客様に対価をいただく形の記事です。

初期の頃は、「期間型」といって、1本の記事を2カ月掲載して、取れた分のリードだけ納品します。その期間中に何回かメールなどでコンテンツに読者を誘導します。といったやり方でした。


それを4年前から、「件数保証」という形に切り替えました。もう最初から、リードを何件お渡しします、という形にしたんですね。

期間型ですと、たくさんリードが取れるときもあるのですが、全然取れないときもあって、結構波が激しかったんです。するとお客様も、投資対効果が事前にわからないですよね。そこでもう初めからコミットして、件数を保証しましょう、と。

もともとアメリカでは、この件数保証は当時既にメジャーだったのですが、日本では弊社が先陣を切って始めた制度です。

現在はさらにそこから進化していて、さらに「属性保証」という形で、リードの内容までを保証する形も増えてきています。

例えば、従業員が100名以上の企業のリードを100件保証します、といったものですね。徐々に、保証する「質」のレベルが上がってきているイメージです。

今後も、より法人と法人の「幸せな出会い」を作っていく

小柴 今後のチャレンジで言うと、個人だけではなく、法人単位でデータを集計することで、その法人の潜在的なニーズを引き出していきたいと考えています。

と言うのも、たとえ個人があるIT商品に興味があったとしても、会社として導入意向がなければ、結局あんまり幸せな出会いにならないんですね。

購買するのは法人になるので、会社全体として導入が考えられているかどうか、ということがBtoBの場合は特に大きいです。

そこで、これまでは個人の興味ばかりを分析してきていたのですが、今はメディア上のトラフィックを法人単位で集計するということを始めています。

この会社がこのジャンルの商材をいま購買しようと思っているのではないか、という意思を見える化して、それを情報サービスとして提供し始めています。

導入検討中の担当者にメーカーからタイムリーに適切な情報が提供されるような、幸せな出会いが作れたら素晴らしいですよね。

今後も引き続き、読者とお客様の双方にとって、よい機会を作り続けていければと思っています。(了)

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