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 「セルロースナノファイバー(CNF)の潜在需要で、最も大きいと期待されているのは自動車用途だ」。京都市産業技術研究所高分子系チームチームリーダーの仙波健氏はこう語る。CNFとは樹木などを原料に植物繊維をナノ(nm)サイズまでほぐした材料。鉄鋼の1/5の密度でありながら強度は5倍以上ある。この特性を生かし、CNFを強化材として樹脂に添加して使うと、軽くて強いCNFの複合材料(CNF強化樹脂)が出来る。これを自動車の車体や部品の材料に使えば、車体の軽量化に貢献するというわけだ。

 ガラス繊維などで強化した現行の樹脂をCNF強化樹脂で置き換えると25%軽量化でき、クルマ1台当たりで約20kg軽くなるという試算もある。軽量化効果は炭素繊維強化樹脂(CFRP)には劣るが、製造時の二酸化炭素(CO2)排出量の少なさや将来的なコストの低さではCNF強化樹脂に軍配が上がる。トヨタ自動車でCFRPやバイオプラスチックなどの材料開発を手掛け、現在は金沢工業大学大学院工学研究科教授を務める影山裕史氏は「CNF強化樹脂とCFRPは共存し、クルマにおいて適材適所で実用化が進むだろう」とみる。

 環境省もCNFの自動車分野への実用化に向けてバックアップ体制に入っている。2016年に「NCV(ナノセルロース自動車)プロジェクト」を立ち上げたのだ(図1)。2016年度から2019年度までの4カ年計画で、京都大学やデンソー、トヨタ紡織、マクセルホールディングス、利昌工業(本社大阪市)、キョーラク(本社東京)、ダイキョーニシカワなど19の研究機関や企業が参加。樹脂や金属、ゴムやガラスなどで出来た既存の部品や部位を、できる限りCNF強化樹脂やCNFを使った「CNF製自動車」に置き換えて試作するプロジェクトだ。東京でオリンピックが開催される機会を捉えて、2020年に自動車の車体の10%軽量化を狙う。CO2削減を期待できて、さらにCNF強化樹脂の特徴を生かせる自動車部品はどれかを検討する。

図1 環境省の「NCVプロジェクト」
図1 環境省の「NCVプロジェクト」
2020年に、既存の材料をできる限りCNF強化樹脂やCNFを使った材料に置き換えたCNF製自動車を造ることを目指す。このプロジェクトでCNF製部品の実用化を支援する。
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 自動車は市場規模が大きい上に、強度や耐久性などの品質面はもちろん、コスト面でも要求される水準は高い。自動車分野で実用化できれば、他の分野への展開がしやすい。NCVプロジェクトの成果は自動車業界はもちろん、他の業界にとっても試金石となるだろう。