創薬のそーせい米上場を視野 —— 3秒に1人ペースで広がる認知症新薬開発を加速

バイオ医薬品の開発を行うそーせいグループは、世界で3秒に1人のペースで発症を続ける認知症の新薬の開発を日本で加速させる。

2004年に東京証券取引所マザーズに上場した同社は、中長期的にはアメリカなどでも株式を上場させることを視野に入れながら、世界のバイオテック・プレイヤーを目指す。代表執行役社長兼CEOのピーター・ベインズ(Peter Bains)氏(60)がBusiness Insider Japanの取材で明らかにした。

ピーター・ベインズ氏

「製薬業界は研究開発で多くの失敗を重ねてきた。そして、今までに(認知症の新薬開発において)収めてきた成果は限られている」(ベインズ氏)

Business Insider Japan

そーせいは11月9日、同社の英子会社ヘプタレス社(Heptares)が2016年に世界製薬大手アラガン(Allergan)と締結したアルツハイマー型認知症を含む神経疾患の研究開発と販売における提携内容を改定すると発表した。

これによって、日本国内で、認知症の一つである「レビー小体型認知症(DLB)」に適応する新薬の研究開発と販売を行うライセンスを取得した。

同社は2018年中に、「新規ムスカリンM1受容体作動薬 HTL18318」と呼ばれる薬剤を投与する臨床試験を日本で行い、DLBの新薬の開発を進める。

2050年患者数は3倍の1億5000万人に

レビー小体型認知症(DLB)とは、アルツハイマー型に次いで2番目に多い認知症で、世界の約4600万人の認知症患者のうち2、3割がこのDLBに罹患しているという。日本の認知症患者は世界のおよそ10%に相当し、そのうちの約92万人がDLB患者である。アメリカのDLB患者数は約140万人。

WHO(世界保健機関)によると、認知症患者数は2050年までに3倍の1億5千万人に膨れ上がり、患者の半数以上は発展途上国に存在すると推測している。各国政府は、治療薬や治療方法の開発やケア施設の確立に対する支援を強化している。

「がんという言葉の意味合いは過去20年で大きく変わった。死を意味する言葉として捉えられていたがんは、今では多くが治療できるようになってきた。一方、認知症は過去20年で、より困難な病として知られるようになった。製薬業界は研究開発で多くの失敗を重ねてきた。そして、今までに収めてきた成果は限られている」とベインズ氏は語る。

認知症患者

日本の認知症患者は世界のおよそ10%に相当し、そのうちの約92万人がDLB患者である。

REUTERS/Issei Kato

DLBは、日本の研究者によって初めて識別できるようになった認知症で、パーキンソン病と同様の神経変性プロセスにより発症するという。脳の中に特殊なタンパク質であるレビー小体が蓄積して、行動や認知、運動に影響を及ぼす病気だ。

この変性によって、「アセチルコリン」と呼ばれる重要な神経伝達物質が減少し、認知症の症状をもたらす。そーせいの子会社のヘプタレス社は、脳内の関連性の高い作用部位の一つにおいて、アセチルコリンの代わりに直接作用するように設計された、新規候補薬「新規ムスカリンM1受容体作動薬」を開発中であり、間もなく日本において患者を対象とした臨床試験を開始する。

欧米で承認されたDLB認知症の治療薬はない

アメリカやヨーロッパでDLBの治療薬として承認を受けた薬剤はなく、日本ではドネベジルという薬剤(エーザイ社が製品名「アリセプト」として開発・販売している)が条件付き承認を取得しているだけだという。

ベインズ氏は、「認知症領域における新薬開発の成功確度はこれまで高くなかった事実を踏まえると、我々(そーせい)もHTL18318を新薬として開発することへのコメントは気をつけなければならない」とした上で、「新規ムスカリンM1受容体作動薬HTL18318が認知症患者への光明となる期待を寄せるには理由がある」と続けた。

米製薬会社イーライリリーはかつて、キサノメリン(Xanomeline)と呼ばれるM1受容体作動薬を開発しており、その臨床試験において脳のM1受容体の活性が認知機能の改善につながることを科学的に立証した。しかし、キサノメリンはM1以外の他のムスカリン受容体も同時に活性化させたため、さまざまな副作用を引き起こすこととなった。そのため、治療薬としての開発は中止された。

そーせい子会社のヘプタレス社は、M1以外の受容体を活性化しない医薬候補品の開発に取り組み、新規ムスカリンM1受容体作動薬HTL18318を見出した。

ロナルド・レーガン

第40代大統領のロナルド・レーガン氏は、自らのアルツハイマー型認知症を告白。闘病の末、2004年6月に死去した。

REUTERS

バイオベンチャー企業の収入源

そーせいのようなバイオベンチャーは、有望な化合物を発見して試験管レベルの成果を確認できれば、「パイプライン」と呼ぶ新薬の開発プロジェクトを開始する。そして、新薬に興味を示す製薬会社と提携(アライアンス)を結ぶと、「マイルストン」と呼ばれる契約一時金を受け取る。その後、開発を続けて新薬が上市(市場で販売すること)されれば、バイオベンチャー企業はロイヤリティ収入を収めることができる。

現にそーせいは2017年4月〜9月期に、約37億円のマイルストン収入を提携先であるアラガンや英アストラゼネカ、イスラエルのテバ・ファーマシューティカル・インダストリーズなどから取得している。

そーせいは1990年に、現在取締役会長である田村眞一氏によって設立された。日本発のグルーバル・バイオ医薬品企業となるため英アラキス(Arakis)社やヘプタレス社を買収。また、世界の大手製薬企業と提携契約を結び、創薬基盤を構築してきた。

ベインズ氏は、そーせいグループが中長期的にアメリカにおける株式上場を検討する可能性にも触れた。

「バイオテック企業にとってアメリカは、2つの点で魅力的だ。一つには、より大きな資本市場を持ち、投資家層が厚いこと。二つ目に、バイオテックに関する専門性や知識はアメリカに集まるということ。しかし、その前に我々が進めるべき開発プロジェクトを前に進め、日本で生まれたグローバル創薬企業として成果を出していきたい」

(文・佐藤茂)

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