2月6日(現地時間)、初めて打ち上げられたスペースXのファルコン・ヘビー。
SpaceX/Flickr (public domain)
- スペースXはスペインの人工衛星をファルコン9ロケットを使って打ち上げる予定。当初は17日(現地時間)の予定だったが、21日に延期された模様。
- ファルコン9には、2基の実験用通信衛星も搭載される。
- 2基の人工衛星は、地球上のあらゆる場所での高速インターネットアクセスを目指すスターリンク(Starlink)計画の実験に使用されるようだ。
- スターリンク計画には1万2000基近くの人工衛星が必要。これは現在、地球の周りを飛んでいる人工衛星よりも多い数。だがマスク氏およびスペースXは、この計画について多くを明らかにしていない。
- 連邦通信委員会(FCC)のアジット・パイ(Ajit Pai)会長は2月14日、この計画を承認した。
イーロン・マスク氏とスペースXは、地球上のあらゆる場所での高速インターネットアクセスを目指す計画について沈黙を保っている。
先日行われたファルコン・ヘビーの打ち上げ会見の際に、Business Insiderはこのプロジェクトに関して質問したが返答は得られなかった。Geekwireによると、この計画は非公式に「スターリンク」と呼ばれている。
「テーマが違う。今日のテーマは、ファルコン・ヘビーだ」とマスク氏。
だが、行政による監督や公式文書、提案内容のスケールの大きさを考えると、同社がこの計画を秘密裏に進めることは難しい。数年内に同社は、ブロードバンド・インターネット衛星4425基を地球上空700マイル(約1130キロ)〜800マイル(約1290キロ)の軌道上に打ち上げ、さらに7500基をより低軌道に打ち上げる。
スペースXは、Microsat-2a、Microsat-2bと呼ぶ2基の小型通信衛星の打ち上げを含む同計画の初期テストに関連する文書を、すでに連邦通信委員会(FCC)にいくつか提出している。
FCCは2017年11月、スペースXによるテストを承認済み。新しい文書によって、同社がスペインの観測衛星Pazの打ち上げの際に、Microsat-2aとMicrosat-2bも打ち上げることが判明した。
打ち上げは、カリフォルニア州にあるヴァンデンバーグ空軍基地からファルコン9を使って行われるとSpaceflight Nowは伝えた。
連邦通信委員会(FCC)のアジット・パイ会長は2月14日、この打ち上げ計画を承認。
「衛星技術により、光ファイバーや携帯電話を使ったインターネットアクセスの提供が難しい地域にサービスを提供することが可能となる」とパイ会長は声明でロイターに語った。
スペースXはなぜ、衛星を使ったインターネット・ビジネスを目論んでいるのか
ファルコン・ヘビーの会見で報道陣を前に語るイーロン・マスク氏。
Dave Mosher/Business Insider
スペースXは、すでに十分速く、広く普及し、手頃な価格で提供され、競争が激化しつつある分野での成功を目指している。同社は、この市場には年間100億ドル、場合によっては1000億ドルの価値があり、より多くの人がインターネットを使うようになれば、ますます成長すると考えている。
宇宙空間の人工衛星ネットワークと安価な地上施設の通信によって、地上にネットワークを構築する手間やコストを回避しようという考えだ。
「用地、掘削工事、光ファイバーの敷設工事、様々な権利などに関する様々な問題は、人工衛星を使ったブロードバンドネットワークによって大幅に軽減される」と同社バイス・プレジデント、パトリシア・クーパー(Patricia Cooper)氏は2017年5月、上院委員会に提出した文書に記した。
人工衛星を使ったインターネットアクセスは、低コストあるいは一部地域では無料で提供される。地球上どこでも1ギガビット/秒のインターネットアクセスが可能になれば、インターネットアクセスに関する不平等問題は解決されるだろう。
アカマイの「インターネットの現状」レポートによると、2015年後半の世界のインターネット回線の平均スピードは5.6メガビット/秒。これはスペースXが目指しているスピードの約180分の1。しかも、CATVや光ファイバーなど好条件での接続も含まれている。
2016年6月の公式文書では、スペースXはユネスコの「デジタル開発のためのブロードバンド委員会(Broadband Commission for Digital Development)」による一節を引用した。
「42億人(世界の人口の57%)は、様々な理由によってインターネットが使えない。だが多くの場合、必要なインターネットアクセスが存在しない、あるいは手頃な価格で提供されていないことが原因」
Microsatミッションが予定していること
マスク氏は、2015年1月に初めてこのプロジェクトについて述べ、その後、実現に欠かせない基本的な技術をテストするための申請書をFCCに提出した。当時、マスク氏は以下のように述べている。
我々は、長期的に、宇宙空間にインターネットを再構築するというようなことを本気で議論している。長距離のインターネットトラフィックの大部分、そしてローカルなトラフィックの10%程度をこのネットワークが担うことを目指す。つまり、ローカルアクセスの90%は依然として光ファイバーが担うことになるだろう。だが、企業と消費者をダイレクトに結ぶうちの10%、長距離トラフィックの半分以上は我々が担うことになるだろう。
憂慮する科学者同盟(UCS:Union of Concerned Scientists)によると、約1740基の稼働中の人工衛星が地球の周りをまわっており、さらに約2600基の活動を停止した人工衛星が存在する。
だが、これらの数字を全て足しても、スペースXが計画している約1万2000基の人工衛星は、その3倍近くになる。
スペースXのファルコン9の打ち上げ風景。
SpaceX/Flickr (public domain)
FCCの文書によると、2基の実験用通信衛星は地球上空約318マイル(約510キロ)の軌道上に送り込まれる(ちなみに、国際宇宙ステーションは約250マイル、約400キロ上空にある)。
衛星が軌道に乗ったあと、スペースXは移動基地局や固定基地局など地上との通信テストを行う計画。通信テストを実施する場所には、インターネットへの接続機能を備えたEVを販売しているテスラのオフィスも含まれている。以下だ。
- スペースX本社、カリフォルニア州ホーソーン
- テスラ・モーターズ本社、カリフォルニア州フレモント
- スペースXテストセンター、テキサス州マグレゴー
- スペースXのオフィス、テキサス州ブラウンズビル
- スペースXのオフィス、ワシントン州レッドモンド
- スペースXのオフィス、ワシントン州ブルースター
- 「テスト用移動車両」3台
また文書によると同社はこのテストをアルゼンチン、ノルウェー、ニュージーランドの「パートナーと協力」して行うようだ。
FCCがスペースXの計画を承認すれば、スターリンクのインターネットアクセスは、マスク氏が2015年当時、100ドル〜300ドルと語っていた小型デバイスで利用できるようになる。
クーパー氏は昨年の文書に以下のように記した。
「エンドユーザー向けの端末は、比較的小さなフラットパネルで、ノートPC程度の大きさ。システムの低軌道衛星を追跡する指向性の高いアンテナを備えている。宇宙空間では光を使って衛星間通信を行い、シームレスなネットワークと継続したサービスを可能にする『ネットワーク網』を作り出す」
2015年6月のワシントン・ポストによると、グーグルとフィデリティ(Fidelity)はこのプロジェクトへの支援の一貫として、スペースXに10億ドルを出資している。この人工衛星ネットワークが稼働し始めたとき、これらの会社もその一端を担うことになるだろう(グーグルの親会社アルファベットも人工衛星、気球、ドローンなどを使ったインターネットアクセスの実現に取り組んでいる)。
宇宙空間からのグローバルな高速インターネットアクセスを実現させようとしているのはスペースXだけではない。OneWebも同様に野心的な計画の承認を求めている。Geekwireによると、OneWebはジェフ・ベゾス氏のロケット企業ブルーオリジン(Blue Origin)やヴァージン・オービット(Virgin Orbit)、アリアンスペース(Arianespace)と提携している。
(翻訳:まいるす・ゑびす/編集:増田隆幸)