独太陽電池大手がまた破綻 「最後の砦」が手続き開始
2010年代前半まで世界の太陽光発電市場をけん引した欧州で、太陽電池メーカーの淘汰が続いている。ドイツ生産にこだわった「最後の砦(とりで)」独ソーラーワールドは10日、破綻の手続きに入ると発表。かつて世界シェア首位だった独Qセルズも破綻後に韓国企業の傘下に入り、ドイツ生産からは撤退した。再生可能エネルギーに熱心な欧州で太陽光発電自体は普及したが、太陽電池メーカーは風前のともしびだ。日本にも影響が及ぶかもしれない。
■「太陽光大国」メーカーの落日
ソーラーワールドは1998年の創業で、ドイツの太陽電池の草分け的な存在だった。割安な中国製品などの競合が激しく、10年代から業績は低迷。13年にはカタール政府系ファンドから約3割の出資を受け入れ再建に乗り出した。14年に独ボッシュの太陽電池事業を買収し、独国内の生産能力を増やし規模拡大に動いてもいた。
だが「価格は毎年2~3割の下落」(フランク・アスベック社長)という状況は続く。高コストであってもドイツでの生産にこだわった同社は赤字が拡大していた。今春には19年までに全従業員の12%にあたる400人の削減と、競合が多い「多結晶シリコン型」から撤退し、次世代の「PERC型」などに絞って立て直す方針を決めたばかり。だが、状況はいっこうに好転せず法的に破綻する手続きに入った。
かつて「太陽光大国」として知られたドイツだが、メーカーには逆風が吹き続ける。12年には一時は世界首位だったQセルズが破綻。韓国財閥の傘下でハンファQセルズとして再出発したが、15年に国内生産をやめ、マレーシア生産に集約されている。ドイツは研究開発機能が残るだけで、国内の生産部門中心に約550人が削減された。同業の独コナジーは13年に破綻しアジア生産で再建している。
■欧州勢はこぞってアジア生産に活路
他の欧州勢もアジアシフトが鮮明だ。欧州首位のRECソーラー(ノルウェー)は11年以降、生産に関しては高コストのノルウェーとスウェーデンから撤退し、シンガポールに集中した。同じノルウェーのスカテック・ソーラーも欧州生産はチェコに絞り、残りは南アフリカ、ルワンダ、ヨルダンと日射量が多い需要地に生産体制を築いた。
ソーラーワールドのアスベック社長はかねて、中国などの同業を念頭に「競合はアジアに拠点を置き、国の資金拠出を受けて巨大生産設備をつくっている」と批判し続けた。だが、今やアジアは生産コストが安い生産拠点だけではない。各国政府が発電コストが下がった太陽光の普及を後押しし消費市場としての魅力も増し、アジア生産の重要性が格段に高まってきた。
欧州主要国では、政府の後押しもあり太陽光が総発電量の5~10%に高まった。だが足元の勢いはアジアや米国の方が圧倒的に上回る。欧州の業界団体ソーラーパワー・ヨーロッパによると、15年末の太陽光発電の累積導入量で中国が4300万キロワットに達し、ドイツを抜いて世界最大の太陽光発電国になった。
日本勢も京セラや昭和シェル石油系が日本国内の生産の縮小や撤退に動き始めたが、まだ主要メーカーの破綻まで至る例はみられない。だが置かれた状況は欧州勢と似ている。
(加藤貴行)