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塩野義製薬「手代木流」で10年先も勝つ

インフル革新薬 ペプチドに布石

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世界で巨額買収が相次ぐ激動の製薬業界において、連結売上高が3000億円規模の塩野義製薬が屈指の好業績を続けている。すでに売上高営業利益率は30%を突破した。少し前まで「鳴かず飛ばず」とされた名門を復活させたのが手代木功社長だ。世界大手との巧みな提携などで自社開発の大型新薬を連発している。業界で「手代木マジック」と称される経営手腕を発揮し、小さくても勝ち続けられるのか。

「独自の創薬技術を確立した企業でなければ、生き残れない。塩野義はこれからも全体の売上高に占める自社開発品の比率を50%以上に維持していく」――。手代木社長は周囲にこう宣言する。48歳の若さで社長に就任してから9年半、驚異的な利益率を上げても満足せず、将来を見据えて貪欲に手を打つ。

新薬開発の成功確率は3万分の1とされる。自社開発品の比率は通常、業界大手でも2~3割程度とされるが、塩野義では共同開発品を含めて6割強と圧倒的に高い。それゆえ、塩野義は武田薬品工業の5分の1以下の規模でも売上高営業利益率は3倍以上。研究開発費は年500億円程度ながら独自開発の新薬を連発できるのは手代木社長の経営手腕が大きい。

象徴的な事例が来年春に世界で販売するインフルエンザ治療薬だ。手代木社長が研究開発本部長に就任した04年以降に掲げた「選択と集中」戦略で、当時は業界大手も注力しない感染症分野に経営資源を投入した成果だ。手代木社長の先見性により画期的な新薬が生まれることになった。

スイスのロシュの「タミフル」が有名だが、細胞内からウイルスが出るのを抑えるだけで増殖は止められない。塩野義の新薬は増殖に必要な酵素の動きを阻害して止める。服用回数はタミフルの半分の1日1回だ。7月には最終的な臨床試験(治験)が成功した。

手代木社長は「従来の治療薬にない仕組みの新薬だ。新たな成長の柱になる」と胸を張る。インフルエンザ治療薬はタミフルを筆頭に競合が多いが、いずれも塩野義のような効能はない。手代木社長が酵素に着目して現場を駆り立ててリスクある開発に挑ませた。

さらに業界を驚かせたのは新薬の海外での販売権を、最大のライバルのはずのロシュに与えたことだ。業界では塩野義と最も密接な関係にある英グラクソ・スミスクライン(GSK)で決まりとみられていた。現在の塩野義の最大の稼ぎ頭は抗エイズウイルス(HIV)薬だが、手代木社長主導でGSKとの提携で開発できたからだ。

ただ、手代木社長は蜜月のGSKにとってライバルのロシュの販売力などを評価し、冷徹に判断を下した。年間売上高500億円以上を狙える大型薬として成功させるためだった。

東京大学発ベンチャーのペプチドリームなどとの提携を仕掛けたことも業界関係者をうならせた。積水化学工業を含めて9月に共同出資で次世代医薬品の原薬製造会社「ペプチスター」を設立。ペプチドリームの技術は「特殊ペプチド」と呼ばれる化合物であり、高い効能と製造コストが割安な医薬品の原料となる。

最大の課題は量産技術の確立で、激しい開発競争が続く。それでも手代木社長は「特許を押さえ、量産技術の開発で先行できる可能性がある」と強気だ。これまで原薬技術は欧米の医薬大手に主導権を握られ、日本の製薬業界の収益力や開発力の弱さにつながった。

塩野義では大型新薬の食道がんワクチン向けにペプチドの原薬の量産技術を長く開発してノウハウを蓄積してきた。昨年末にはペプチド分野のベンチャーのファンペップ(大阪府茨木市)とも提携。開発リスクも認識しながら、いつも通り電光石火の早業で今回の提携をまとめた。業界関係者は「手代木さんは10年先、20年先を見据えながら足元で着実に妙手を打ってくる」と語る。

手代木社長は82年の入社後、米国駐在が長く海外企業との提携交渉などで活躍。99年には39歳という異例の若さで経営企画部長に就任し、5カ年の中期経営計画の策定を仕切った。最大のテーマは「営業力の塩野義」から「創薬型企業」への転進だが、社内外で「それは無理だろ」と冷ややかな声が続出したのも当然だった。

当時の塩野義は業績不振が続き八方ふさがりだった。塩野義は初代塩野義三郎氏が1878年に大阪・道修町で薬種問屋を開いて以降、創業家主導の経営であり、再編という選択肢はない。「中興の祖」として53年から長くトップに君臨した塩野孝太郎氏が築いた最強の営業部隊で勝負できる時代は過ぎ、人件費が重荷だった。有力新薬候補もほとんどなかった。

手代木社長は当時について「どうすれば生き残れるのか。頭にあるのはそれだけだった」と振り返る。その答えが「創薬型企業」だった。04年に常務として研究開発部門トップに就任し大改革を進めた。特に20近くあった研究領域を「感染症」など3つに絞り込んだ。現場は猛反発したが、「嫌なら代案を出してくれ」と何度も現場と話して納得させた。

中期計画では感染症など注力する医療用医薬品以外の事業は相次ぎ切り離した。この結果、手代木氏が社長に就任する直前の08年3月期の連結売上高は2142億円。02年3月期のほぼ半分に激減するほどの荒療治だ。それでもGSKなどと共同開発する抗HIV薬などの開発は順調で、有力な新薬候補がそろいだした。無駄の排除など経営の改善も進み営業利益率は20%近くになった。

その後、業界でささやかれたのが武田薬品と塩野義の合併説だ。13年ごろだが、当時の武田社長だった長谷川閑史氏が合併で塩野義の新薬候補に加え、後継者として手代木氏を狙っているという話が業界首脳たちの間で広がった。

業界の重鎮によれば、結局は合併協議は条件が折り合わず白紙に戻ったという。ある製薬会社のトップも「両社の統合話が実現していたら、武田が本当に手ごわい会社になっていた」と語る。

手代木社長がこの20年近く改革に挑んだのは最大のドル箱の高脂血症薬「クレストール」が16年に特許切れになれば、会社の存続が危ういとの思いがあったからだ。その危機を乗り越えたのは世界の製薬大手との提携交渉を成功に導いた「手代木マジック」があったからだ。

塩野義製薬の連結業績は2018年3月期の営業利益が過去最高の1125億円で、売上高利益率は33%に達する見通しだ。最大のけん引役はロイヤルティー収入の「HIVフランチャイズ」。16年3月期は405億円、17年3月期は733億円だが、18年3月期は1030億円と急増する。まるで魔法を使っているかのようだが、ここでも手代木功社長の巧妙な仕掛けがあった。

HIVフランチャイズは塩野義と英グラクソ・スミスクライン(GSK)が01年に設立した米合弁会社で開発した「テビケイ」など抗HIV(エイズウイルス)薬のことだ。手代木氏が合弁事業を仕切り開発も順調だったが、09年に事件が起きた。GSKが米ファイザーと抗HIV薬の開発会社「ヴィーブヘルスケア」を共同で設立、塩野義との合弁会社株をそこに移したのだ。

世界の二大製薬会社が手を組み、塩野義ははしごを外された格好だが、手代木社長は慌てずに妙手を打った。

実は最初のGSKとの契約時に合弁会社のGSK持ち分を買い取れるコールオプションを盛り込ませていた。怒りにまかせてファイザーとの提携を邪魔できたが、逆に塩野義の持ち株をヴィーブに移して10%の株式取得を提案。ロイヤルティーも売上額の10%台後半という好条件を引き出した。交渉で買い取り権を巧みに使い、圧倒的に有利な条件を引き出した。

日本の医薬品大手首脳も「株の取得なんて普通は思いつかない。GSKやファイザーと互角に渡り合えるとは驚きだ」と語る。塩野義はファイザーとGSKが抗HIV薬の販売を増やす中、経費をかけず、ロイヤルティー収入と年100億円以上の配当金を受け取る。今後も有力な新薬が相次ぎ登場するため、安定した収益を続けられる。

塩野義の生命線とされた高脂血症薬「クレストール」でも16年の特許切れを前に手を打った。海外での販売権を与えた英アストラゼネカの業績が不振だった13年末、ロイヤルティーを下げる代わりに受け取り期間を16年から23年に延長させることを提案して合意した。

塩野義にとって18年3月期のクレストールのロイヤルティー収入は前期比110億円減でも220億円の見通し。業界では特許切れ後の売り上げの激減を「パテント・クリフ(特許の崖)」という。クレストールでは「激減緩和措置」をとった。これも業界他社を驚かせた妙手だった。手代木社長は「クレストールの影響はクリフではなく、なだらかなヒル(丘)にできた」と胸を張った。

手代木社長は最大の課題とされた米国事業でも手を打っており、「20年3月期には黒字化できる」見通しとなった。現地法人に任せるだけでなく、医薬品ごとに最適な提携先と契約を結んでおり、米国での販売拡大が見込めるからだ。

ただ、将来にはリスクもある。特に収益の多くは自社の特許などを使った共同開発品によるロイヤルティー収入に依存する。18年3月期見通しは1450億円で、連結売上高の4割以上を占める。世界大手の多くに販売してもらい効率的に稼げている。

それでも競合企業から画期的な新薬が登場したり、提携先が再編して戦略が異なれば、契約自体が見直される可能性がある。海外で自力で売れる力が乏しく、世界大手が飛びつく強い新薬を出し続けるしかない。

塩野義の足元の新薬候補は充実している。新型インフルエンザ治療薬が代表例だが、最終段階の第3相の臨床試験(治験)には国内外で8製品もある。その前段階の第2相も新薬として発売できる可能性が比較的に高く、それも10製品ある。

競合他社が数少ない弱点と指摘するのは治験の初期段階の第1相がわずか4製品に過ぎないことだ。この第1相を数多く抱えていることが将来の成長を左右する。世界の製薬大手は圧倒的に豊富な資金があるからベンチャー企業の買収などを含めて無駄な鉄砲でも無数に撃てるわけだ。

手代木社長がペプチドリームなどとの提携を進めているのも、現段階では手薄な10年以上先を見据えてのことだ。特にペプチドリームの技術を活用すれば、原薬と特許の両方で、「中分子」と呼ばれる将来有望な医薬品領域で塩野義が世界のトップに立てる可能性もある。それも難しい開発を成功させるしかない。

48歳で社長に就任した手代木社長もすでに57歳であり、来年には就任10年を迎える。まだまだ続けられる気力も体力もあり、大胆な提携などを仕掛けられる時間も残されている。ただ、開発戦略から世界大手との交渉まで辣腕を振るうだけにワンマン経営に陥るリスクもある。社内では後継者の育成を不安視する声も出ている。

90年代には「終わった会社」とも揶揄(やゆ)された塩野義の復活は劇的だった。その奇跡を起こした魔法はいつまでも解けないのか。規模が小さくても、魔法使いがいなくても、強い企業であり続けられる仕組みを残すことが経営者として評価される手代木氏にとって今後、最大の責務になりそうだ。

(大阪経済部 高田倫志)

[日経産業新聞 9月19日付]

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