トヨタ走ればデータ湧く つながる車へ全方位提携
NextCARに挑む CASEの衝撃【C】
トヨタ自動車が東京都内を昼夜動き続ける、500台の移動カメラの運用を始めた。
「今まさに走っているタクシーからのデータです」。10月、東京都江東区で開かれた新型タクシー「ジャパンタクシー」のお披露目会でコネクテッド部門を統括する友山茂樹専務役員は大型スクリーンに映し出された地図を前に力を込めた。
トヨタはタクシーの業界団体と組み、都内500台に通信型のドライブレコーダーを載せた。地図上の無数の点は、タクシーが今走っている場所。それぞれの車両の速度、エンジン回転数などのデータも取得する。それだけではない。車両からは前方の画像も集まる。
これで刻々と変わる都内の道路状況を把握できる。事故に合った車の存在、駐車場の空き状況なども画像から確認できるようになる。2月からの実証実験で取得したデータ量は既に1ペタ(ペタは1千兆)バイトを超えた。
トヨタはまず2018年春から画像を人工知能(AI)で解析し、車線別の渋滞状況を試験提供する。さらにタクシー向けの新たな配車アプリサービスも開発する方針だ。タクシーに乗りたい人がどこにいるかを予測し効率的に配車する。
「未来の武器に」
トヨタのビッグデータ収集の先兵になるタクシー。その新型車には豊田章男社長も「トヨタ自動車の未来の武器になる」と期待する。
多くの産業で指摘される収益のスマイルカーブ。設計や素材など産業の上流、サービスの提供といった下流が高収益な一方、組み立てなど中流部分で収益が上げにくくなるという例えだ。
完成車メーカーはこれまで産業のカーブの端にとどまり、新車販売が事業の中核だった。だが電動化や自動運転、シェアサービスなどが広がるこの先もそうだろうか。デロイトトーマツコンサルティングの清水雄介マネジャーは、バッテリーのコストの高さなどの背景もあり「電動化による収益のマイナス影響は無視できない」と分析する。
PwCストラテジー&によると、15年に自動車産業で生み出された利益の41%は自動車販売によるもの。だが30年にこの比率は29%まで低下し、デジタルサービスなど新分野の合計がこれを上回る。自動車メーカーの既存事業からの利益は産業全体の5割を切る。
だからこそトヨタはクルマから集まるビッグデータに目を向け、そのデータを集めるためにコネクテッドへの対応を急ぐ。一般のクルマでも日米で20年までに車載通信機「DCM」をほぼ全ての車種に標準搭載する。
500社超が応募
「モビリティーサービスで(外部企業に事業基盤を提供する)プラットフォーマーになる」(友山専務役員)という青写真は、その地位が得られなければスマイルカーブの中ほどに追いやられるという危機感の裏返しだ。自前主義にはこだわらず、全方位の提携でプラットフォームの地位を得ようとしている。
国内で乗用車1800万台超の保有台数があるトヨタ車は、データの宝庫に化けうる。その魅力は提携相手をひき付ける。17年に実施したオープンイノベーションの相手を探すプロジェクト「トヨタネクスト」には、実に500社超が応募。最終的に選ばれたのは5社。結果的に100倍という狭き門になった。
データの活用策の一つはマーケティングだ。選ばれた5社の一つ、ナイトレイ(東京・渋谷)は訪日外国人のSNSでの投稿などと地図情報をかけ合わせ、人気のルートやエリアを探り出して企業などに提供するビジネスを手掛ける。石川豊社長は「クルマのデータを生かせば地域活性化などで新たな可能性が広がる」と語る。
インターネット経由で家族や友人に電子ギフト券を贈るサービスを提供するギフティ(東京・品川)も提携先の1つ。「クルマで体験できる生活を変えたい」と話す太田睦が夢見るのは、ギフティが手掛ける電子ギフトや地域で使える電子通貨サービスとカーナビなどとの連携だ。ドライバーが車で訪れる場所の周辺の飲食店や小売店、観光地などから様々な電子チケットや通貨が送られる仕組みが想定される。
もともとトヨタを含めた日本の自動車メーカーは、コネクテッドにいち早く取り組んできた。ホンダが1997年に先陣を切って実用化した「インターナビ」以後、各社は相次いで自社の車両から集まる情報を反映した渋滞情報やルート検索サービスを提供。「自社の車の利便性と移動の喜びを高める手段」(ホンダの鳥海真樹日本本部営業企画部主任)との位置づけだった。
ただ各社とも「つながる」を入り口にして稼ぐ方向には動かなかった。データの発生源のハードウエアを手掛けても、ビジネスで先んじることができるかは別問題だ。
トヨタにとってアルファベットの「C」は特別な一文字。かつてCから始まる「カローラ」「クラウン」「セルシオ」などが時代を彩ってきた。コネクテッドがトヨタを変える新たな「C」になるか。
コネクテッドカー
通信を介してインターネットなどに接続できる機能を備えた車。自動運転の支援や目的地への精度の高いナビゲーションの情報の提供などにつながる。通信回線の高速化で従来より大容量データのやり取りが可能になる。欧州では衝撃から重大事故を感知し、通信回線を使って自動的に救急機関に通報する装置の義務化も計画されている。
(名古屋支社 押切智義、企業報道部 花井悠希)
[日経産業新聞 2017年12月13日付]
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