2017年7-9月期の実質GDP成長率は前年同期比4.3%増(*1)と、前期の同3.8%増から上昇したほか、Bloomberg調査の市場予想(同3.9%増)を上回る結果となった。

需要項目別に見ると、輸出の好調と投資の回復が成長率上昇に繋がった(図表1)。

民間消費は前年同期比3.1%増と、前期の同3.0%増から若干上昇した。財別に見ると、サービス、耐久財が鈍化しつつも堅調に拡大、半耐久財と非耐久財が低調に推移した。

政府消費は同2.8%増(前期:同2.7%増)となり、予算執行が順調で現物社会給付と財・サービスの購入を中心に上昇した。

投資は同1.3%増と、前期の同0.4%増から上昇した。投資の内訳を見ると、民間投資が同2.9%増(前期:同3.2%増)と、民間設備投資(同4.3%増)が回復する一方、民間建設投資(同1.1%減)の低迷が響いて低下した。公共投資が同2.6%減(前期:同7.0%減)と、マイナス幅こそ縮小したものの、公共設備投資(同3.9%減)と公共建設投資(同2.2%減)が揃って低迷した。

輸出は同7.4%増(前期:同6.0%増)と上昇した。うち財貨輸出は同8.1%増(前期:同5.2%増)と上昇した。アフリカやイラン、バングラデシュ向けのコメ、ベトナムや台湾向けのエビといった食品類、世界需要が拡大している通信機器、中東向けの自動車の輸出が拡大した。またサービス輸出は同4.9%増と、訪タイ外国人観光客数が鈍化したために前期の同8.8%増から低下した。

供給項目別に見ると、これまで低迷が続いた製造業の回復が成長率の上昇に繋がったことが分かる(図表2)。

タイGDP
(画像=ニッセイ基礎研究所)

農林水産業は前年同期比9.9%増と、前期の同15.8%増から低下したものの、高水準を維持した。農業・林業(10.1%増)は良好な天候に恵まれてコメやキャッサバ、トウモロコシ、ゴム、野菜など主要な農産品を中心に増加した。また漁業(同8.6%増)も海外需要が拡大しているエビや魚肉生産を中心に好調だった。

非農業部門では、まず製造業が同4.3%増(前期:同1.0%増)となり、海外需要の回復を背景に上昇し、4年半ぶりの高水準を記録した。製造業の内訳を見ると、自動車や電子部品、コンピューターなどの資本・技術関連産業(同3.7%増)、食料・飲料や宝飾品などの軽工業(同5.4%増)ゴム・プラスチック製品や化学製品などの素材関連(同3.8%増)がそれぞれ上昇した。また電気・ガス・水供給業は同3.5%増(前期:1.4%減)と上昇する一方、建設業は同1.7%減(前期:同6.2%減)と民間部門と公共部門が揃って減少して2期連続のマイナスとなった。

全体の6割弱を占めるサービス業は引き続き景気の牽引役となっているものの、伸び率はやや鈍化した。卸売・小売業が同6.4%増(前期:同6.0%増)、不動産業が同4.2%増(前期:同4.1%増)とそれぞれ上昇した。一方、ホテル・レストラン業が同6.7%増(前期:同7.5%増)、運輸・通信業が同8.1%増(前期:同8.6%増)、金融業が同4.8%増(前期:同5.1%増)と低下した。

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(*1)11月20日、タイの国家経済社会開発委員会事務局(NESDB)は2017年7-9月期の国内総生産(GDP)を公表した。なお、前期比(季節調整値)の実質GDP成長率は1.0%増と前期の同1.3%増から低下した。
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7-9月期GDPの評価と先行きのポイント

7-9月期の景気回復は輸出が加速した影響が大きい。財貨輸出は、海外経済の回復を背景に食品や世界的に需要が拡大している電気電子製品、そして原油安の影響で低迷していた中東向けの自動車の回復が全体を押し上げている(図表3)。

こうした輸出拡大を背景に民間部門は回復基調にある。自動車や電気機械、食品加工、ゴム・プラスチックなどのセクターでは生産が改善、稼働率は漸く上昇し始めており、長らく低迷していた民間設備投資が3期連続で上昇した(図表4)。また民間消費も低インフレ・低金利の継続に加え、農業や製造業、サービス業など幅広いセクターにおける所得の改善が追い風となって堅調に拡大した。

タイ経済は今後も堅調に推移しそうだ。海外経済の緩やかな回復を背景に輸出の増加傾向が続くなか、民間消費と民間投資に好循環が波及する輸出主導型の景気回復の動きは続くものと見込まれる。

タイGDP
(画像=ニッセイ基礎研究所)

足元では食品価格の低迷が農業所得の重石になっており、今後の消費への影響に懸念が残るものの、10月にはプミポン前国王の葬儀が執り行われ、1年の服喪期間が終了したことから企業の販促活動が活発化して消費需要を刺激するだろう。また昨年同様、年末の買い物に対する所得控除が今年は適用期間を5日拡大して実施されるほか、国内旅行に対する所得控除策は1-3月期に実施される予定となっており、短期的な消費の落ち込みは回避されそうだ。

今期成長が鈍化した公共投資と観光業についても再び勢いを取り戻して景気のサポートとなるだろう。7-9月期の公共投資は従来の建設プロジェクトの継続が中心で大型プロジェクトが始動しなかったが、今後は大型の交通インフラプロジェクトや東部経済回廊の開発などによって大きく加速するものと見込まれる。また観光業はイスラム教の断食明け大祭が6月(昨年は7月)となった影響で訪タイ観光客数が伸び悩んだものの、観光客数の基調は堅調に拡大していることに変わりはない。

タイ政府は成長率見通しを17年が3.9%、18年が3.6-4.6%と高めの水準を予測している。これまで低迷していた製造業が回復し始め、堅調な経済成長が続く確度は高まってきている。

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斉藤誠(さいとう まこと)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 研究員

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