成長著しいフィリピン市場で通信インフラの整備に参画――株式会社アイ・ピー・エス 代表取締役社長 宮下 幸治
株式会社アイ・ピー・エス
証券コード 4390/東証マザーズ
代表取締役社長 宮下 幸治
Koji Miyashita
国際電話の代理店からスタートし、次々に新しい事業を創出しながら成長を続けているアイ・ピー・エス。フィリピンの通信市場に日本企業として初めて進出を果たした宮下幸治社長に同社の強みと今後の展望を聞いた。
取材・文/小椋 康志 写真撮影/和田 佳久
フィリピンにフォーカスしてさまざまな事業を展開
―― 御社の事業内容についてお聞かせください。
宮下 当社は現在、国内通信事業、海外通信事業、在留フィリピン人関連事業、医療・美容事業、フィリピン国内通信事業と、5つの事業を展開しています。平成3年に海外人材を日本企業に紹介する事業を目的として設立したのですが、バブル崩壊により、人材ビジネスは一時保留にして通信事業に取り組むことにしました。ちょうど国際通信が自由化された時期だったので、在留フィリピン人を中心とした在留外国人向けに通信サービスの提供を開始しました。
―― 現在は海外にも進出していますね。
宮下 当社は、国内ベンダーの高い通信機器ではなく、移民社会で多くの中小国際電話会社が競争していた米国で販売されていた柔軟で廉価な交換機を購入し、英語のわかる外国人スタッフを活用して在留フィリピン人向けに、プリペイドカード式国際電話サービスの提供を開始しました。このとき導入した交換機の柔軟さと、スタッフの応用力が、その後のMVNO向けのサービスや電話投票など他社では成し得ないサービスの実現につながっています。
その後、多くの通信事業者が参入し、競争が激化するとともに、スカイプなどの無料通話アプリが普及し始めたことに危機感を覚え、生き残りをかけ、フィリピンに目を向けてみました。すると、通信事業がまったく自由化されていません。詳しく調べたところ、フィリピンの憲法では、公益事業は国が例外的に認めた場合に限り、行うことができるとされております。具体的には、特定の会社に通信事業を行うことを許す法律を作ることになります。外資規制も厳しく、海外のプレイヤーが入れない仕組みになっていました。そこでフィリピン国内の通信事業者と手を組み、CATV(ケーブルテレビ)事業者向けに国際通信回線を卸売で提供することから開始しました。
その後、2015年にフィリピン国内で通信事業を行う現地法人を設立し、2016年には同社が通信事業を営むことを認める法律が国会で制定されました。2017年には国家通信委員会から適格事業者免許が与えられ、現在は光ファイバーの通信回線を敷設しています。
日本市場は薄利多売だが、フィリピン市場は利益率が高い
―― フィリピンの事業環境はいかがですか?
宮下 売上高で言うと60対40で日本の方が若干高いのですが、利益では70対30とフィリピンの方が高くなっています。日本市場が薄利多売なのに対し、フィリピン市場にはまだまだ当社が入り込む余地があります。医療・美容事業では日本ブランドに対する信頼も厚く、レーシックでは大きなシェアを獲得しています。
また、法人向けインターネット接続サービス事業も好調です。フィリピンの固定ブロードバンド市場は大手2社が寡占しているため、競争が不十分でサービスも低品質で高価格というのが実情です。日本の事業者であれば東から1本、西から1本というように、万が一どちらかの回線が切れても大丈夫なように回線を引くのですが、フィリピンの事業者は1本しか引きませんから、多くの企業が大手2社にサービスを依頼し、2重に料金を支払っています。それに対して当社の回線は安定していて、価格は大手の3分の1程度です。このような「高品質で低価格」という日本流のサービスが受け入れられ、確実にシェアを拡大しています。
── 今後の展望をお聞かせください。
宮下 日本国内よりもフィリピンの方が収益性が高いので、そちらに軸足を置いてやっていく方針です。首都マニラには高層ビルが立ち並ぶ商業地域が7カ所ほどありますので、そのエリアの法人に絞ってインターネット接続サービスの直販をしていきます。なお、上場により調達した資金は現地法人への投融資を通じてマニラ首都圏地域の光ファイバー網の整備に用います。自社で敷設するのは大変ですが、エリアも限定されていますし、距離も短いためそれほどコストはかかりません。3月末までに67のビルで211件のサービスを提供していますが、最終的には1,500のビルに提供したいと思います。グループ会社を含めた自社の通信回線でインターネット接続サービスが完結できれば、まさに一気通貫のビジネスモデルが構築できます。このようにしてマニラを制すれば、かなり大きなマーケットを獲得することになります。
フィリピンの人口は1億人を超え、平均年齢24歳と若いです。最近はインフラ投資にも力を注いでいて、秩序ができつつある状況です。また、しばらくは人口ボーナス期が続き、成長が期待できます。フィリピン経済は年率6%程度の成長が見込まれ、今年は一人当たりの名目GDPが3千ドルを超えると予想されます。3千ドルを超えると高額商材などの消費市場が一気に加速すると言われています。約20万人の在留フィリピン人を相手にしていた当社が、約1億人ものフィリピン人を相手にビジネスができるようになるのです。これがずっと私の夢でした。長期的には売上高で200億円、経常利益で50億円を突破したいと考えています。
当社は創業27年ですが、マインドはいまだにベンチャー的なものがあります。各事業部がしっかりと独立していて、どんどん新しいビジネスを探してくる。それが当社の強みかもしれません。
── 株主還元については、どのようにお考えですか。
宮下 通信事業はイニシャルコストがかかり、投資がかさむようなイメージがあるかと思いますが、フィリピン国内通信事業の収益自体は早いタイミングで黒字化できると見込んでいます。内部留保などのバランスを考え、配当なども積極的に行っていきたいと思っています。