2019年10月30日水曜日

事業売却を求めても「物言う株主ではない」と書く日経の矛盾

30日の日本経済新聞朝刊 投資情報面に載った「キリンの多角化に異議~英運用会社が書簡 『ビールとの相乗効果なし』」という記事を読むと「物言う株主」とは何か分からなくなってくる。
瑞鳳殿の杉並木(仙台市)※写真と本文は無関係

記事の全文は以下の通り。


【日経の記事】

英投資運用会社のフランチャイズ・パートナーズ(FP)が、キリンホールディングス(HD)の進めるバイオや医薬品など多角化をやめて、中核事業のビールに専念するよう求める書簡を同社に送ったことが29日までに分かった。事業を巡る両社の議論が活発になりそうだ。

FPは2014年9月からキリンHDに出資。現在は発行済み株式の2%強を保有しているとみられる。キリンHDは2月にバイオ関連事業を手掛ける協和発酵バイオを子会社にすると発表。8月には化粧品や健康食品製造のファンケルと資本業務提携を結ぶなど非ビール事業強化を進める。

関係者によると、FPは当初、低迷していたブラジルのビール事業の売却などを支持していたようだ。だがバイオや医薬品などの強化を進めると反発に傾いた。「ビール事業と相乗効果はなく、ほかの事業への投資は非効率」とみているようだ。キリンHDの株価は2200円台で、18年4月に付けた高値(3199円)を3割程度下回る。

FPはビール事業以外の医薬・バイオ事業や国内飲料事業の売却なども求めている。ほかの株主とも問題意識を共有し、会社との対話を進めていく方針だという。

FPの運用資産は現在約1兆7000億円。投資先に積極的に経営改善を働きかける「物言う株主」ではなく、長期保有を前提としている。収益性が高く知的財産や特許などが資産の中心の世界企業20~30社に投資し、日本企業では任天堂や日本たばこ産業(JT)も保有する。キリンHDは「投資家との個別のやりとりについてコメントはできない」としている。


◎かなり「積極的」では?

投資先に積極的に経営改善を働きかける」株主が「物言う株主」だと筆者は認識しているようだ。異論はない。なのに「キリンホールディングス(HD)の進めるバイオや医薬品など多角化をやめて、中核事業のビールに専念するよう求める書簡を同社に送った」ことが判明した「英投資運用会社のフランチャイズ・パートナーズ(FP)」について「『物言う株主』ではなく~」と書いている。

普通に考えれば矛盾している。どう理解すればいいのだろうか。

まず考えたのが「FP」は「経営改善を働きかけ」てはいるが「積極的」ではないという可能性だ。しかし「バイオや医薬品などの強化を進めると反発に傾いた」「ほかの株主とも問題意識を共有し、会社との対話を進めていく方針」といった説明から判断すると、かなり「積極的」だ。「積極的」かどうかに明確な基準はないので「自分には消極的に見える」との弁明は不可能ではないが、かなり苦しい。

『物言う株主』ではなく、長期保有を前提としている」と書いているので「長期保有を前提」としていれば「物言う株主」ではないとの見方なのかもしれない。しかし「物言う株主」とは一般的に言っても「上場企業の経営に自らの考えを表明して積極的に関わる株主」(デジタル大辞泉)を指すので「長期保有」だから「物言う株主」ではないと見なすのは無理がある。

FP」自身が自分たちは「物言う株主」ではないと言っているのかもしれない。だが、記事を書く上でそこに縛られる必要はない。一般的な基準で「物言う株主」だと認識できるのならば「物言う株主」だ。

FP」は「キリンHD」に働きかけるまで「物言わぬ株主」だったのかもしれない。しかし、今回「積極的に経営改善を働きかけ」たのならば「物言う株主」に生まれ変わったはずだ。

色々と検討してみたが、「中核事業のビールに専念するよう求める書簡」を送ったことが事実ならば、やはり「FP」は「物言う株主」にしか見えない。


※今回取り上げた記事「キリンの多角化に異議~英運用会社が書簡 『ビールとの相乗効果なし』
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20191030&ng=DGKKZO51543440Z21C19A0DTA000


※記事の評価はD(問題あり)

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