SPX
 S&P 500テクニカルシリーズの前回記事は「新高値に売りあり」としていたが、果たして指数はその時の2900割れから一時2800まで迫った。もっともその後は「ただ、景況感が一応は戻っており暴落も遠そうなので大きく押したらまた押し目買いで良さそうだ」としていた通り自律反発を見せている。この間でトランプの25%関税復活ツイートを経て貿易戦争の再燃が市場のテーマとなっている。特に中国側の態度硬化が話題になった。景況感的には中国を中心に1-3月期の反発を経て4月は更にやや下向いているようだ。

 テクニカルには今のところ5月安値の2800は3月末安値と面合わせとなっている。週足は2800を先端とする下ヒゲ陽線となっており、調整終了の合図に見えなくもない。一方、2800を下に割ったら週足下割れと日足ヘッドアンドショルダーが重なってしまう。もっともその下には2776の200日線もほぼ水平で控えており、ヘッドアンドショルダー完成の勢いで一気呵成で下割れできないと2700後半〜2900でグダグダが続きそうだ。
 
VIX
 カナリア達はと言うと、VIXは右往左往するだけの意味のない指数となっている。5月初のVIXは期近だけ押すな押すなを誘発しようとわざとらしく持ち上げられた形跡がある。VIX 23と言えば昨年12月1〜2週目並みの水準であり、その時は現物指数は既に大陰線を引き始めていたが、今回は指数は落ち着いていた。そして前回の記事で「4月にはVIX先物の投機的ショートポジションが過去最大となった。これは何かのショックがあった場合に押すな押すなとなるリスクの高まりを示している。VIXの数字が上に飛んだ場合、リスクパリティなどのアセットアロケーターも押すな押すなとなる。もっとも、前回の記録的なショートが作られたのは2017年9月であり、そこから現にボラティリティは抑制され、2018年2月のVIXショック前にはVIXショートは既に畳まれ始めたので、記録的なショートそのものが直ちにショートカバーを誘発するわけではない」としていた通り、記録的なショートはこの程度の持ち上げに全く動揺しなかったようであり、その後現物が戻りきらない中でもあっさり10台中盤まで戻っている。
AQRIX
 VIXの高まりは確かに理論的にはリスクパリティファンドの売り需要を引き出すことになっているが、今のところ大規模な売りはあったと思われない。リスクパリティファンドは底からのポジション復元が迅速ではなく、誘発される売りもそこまで素早くないようだ。代表的なリスクパリティファンドであるAQRIXは、S&P 500の調整が微々たるものであり、債券はFedのハト化で買われ続けたにも関わらず、12月の底からの反発幅の4割を一時失っている。これは天井圏でようやく株のエクスポージャーを復元し始めた(そしてすぐに調整に見舞われた)可能性を意味する。「米REIT、米株、米金利、カナリア、イカロス」でも述べたように、国債部分が金利上昇で揺さぶられない限り、(昨年と異なり)リスクパリティファンドの順張りの売りは出にくい可能性がある。
HYG
 もう一羽のカナリアであるハイイールド債に至っては更に微々たる調整である。クレジットがまだクラッシュしていないため調整のアク抜けがまだ先であるという見方と、クレジットが堅調なので他の資産の調整はたかが知れているという見方に分かれたようだが、今のところ後者に軍配が上がっている。

 一方、ファンダメンタルズにはあまり楽観的になれない。米中貿易戦争は急速に決裂に向かっている。トランプ大統領が株高を見て強気になるリスクはさることながらも、昨年弱気だった中国側が国内経済の持ち直しを見て強気に戻るリスクが顕在化しつつあり、こちらを過小評価すべきではない。今後のスケジュールとしては6/28〜29の大阪G20が目安となる。もしそれまでに環境が整えばここでトランプ・習会談が再び持たれ(トランプ大統領は既に参加を表明しており、一時早速環境が整ったとの観測をかき立てたが、上のリスクにより直前まで油断できない)、昨年のブエノスアイレスG20のように再び休戦に持ち込めるかもしれない(なお、ブエノスアイレスG20開催中も米国がカナダ当局にファーウェイCFOの女性を拘禁させ、12月のクラッシュを招いたため縁起はあまり良くない)。休戦にならない限り関税はかかり続けるため、安心して株の上値を追いかけられるシナリオへのハードルは高い

 前回の記事で記した通り、初めての調整では落ちるナイフを拾っても安全だった。しかし、何も起きない限り時間が経つにつれてファンダメンタルズの神経質さは続くため、押し目買いのオッズが悪くなりつつあるように見える。2800を下に切った場合は2900レジスタンス、2800台の戻り売りで迷いは少ないが、それまでに押し目を拾うべきかどうかは中々の難問である。今もレジスタンスとなっている感がある2900を上に切ったら再び機動的に追いかける覚悟で、ファンダメンタルズの不透明さが払拭されるまで慎重に構えるべきかもしれない。

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この記事は投資行動を推奨するものではありません。