(画像:123RF)
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 日本の株式市場に上場するバイオスタートアップの株価を週ごとにウォッチしていく「バイオベンチャー株価週報」。2022年5月20日金曜日の終値が、前週の週末(5月13日)の終値に比べて上昇したのは28銘柄、不変だったのが3銘柄、下落したのは19銘柄だった。

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 この間、上昇率の第1位はペルセウスプロテオミクスで+41.3%だった。第2位はジーエヌアイグループで+19.3%、第3位はステムセル研究所で+16.0%と続いた。一方、下落率では大きい順にキッズウェル・バイオが-24.6%、Delta-Fly Pharmaが-15.3%、プレシジョン・システム・サイエンスが-11.6%となっている。

ペルセウスプロテオミクス(527円、前週比+41.3%)

 5月19日、20日と2日連続でストップ高を記録し、株価は20日終値で527円(前日比+17.9%)となった。今週の値上がり率は全50銘柄中1位だった。材料となったのは、富山大学とのCOVID-19治療用の抗体医薬候補に関する提携だ。富山大が見いだしたCOVID-19治療用の「スーパー中和抗体」を、ペルセウスプロテオミクスが薬事承認に向けて開発するとした内容が評価された。

 このスーパー中和抗体はCOVID-19回復患者由来の抗体で、1つの抗体で多種の変異株の感染を防ぐことができる点が特徴で、富山大が2021年6月にその取得成功を発表した。2022年5月12日にはそのエピトープマッピングなどに基づく解析の結果、スパイク蛋白質のRBDにおいて感染に重要なF486およびN487を標的部位にしていることを報告、未知の変異株に対しても中和活性を示すとの考察を発表している。

 COVID-19の中和抗体に関しては、米Eli Lilly社のバムラニビマブ+エテセビマブや、中外製薬のカシリビマブ+イムデビマブで、オミクロン株への中和活性が低下するとの研究結果が出るなど、変異株の影響を受けるものが多い。変異株にかかわらず効果を示す抗体医薬が求められている中、今回の抗体医薬はそのシーズとして期待され、開発が進むのではといった思惑があるようだ。

 富山大は、「F486およびN487がヒトへの感染に重要な部位であるため、この部位が変異すると感染性が弱まり、流行できなくなる、または弱毒化すると考えられる」としている。このエピトープを押さえておけば、未知の変異株を含めて幅広く効果を示せると期待でき、本抗体が中和活性を失うような変異株は弱毒化するため脅威ではなくなる可能性が高いということだ。もっとも、ウイルスがどのような変異を遂げるかは分からない。

 政府がCOVID-19治療薬の開発に注力していることもあり、国産の抗体医薬シーズへの期待は高いと予想される。ペルセウスプロテオミクスは、日本医療研究開発機構(AMED)の研究費を獲得し、その資金で開発を進めていく方針だ。つまり同社にとって新たな費用の拠出がなく、経営リスクが低いという点も、今回の件が材料として高く評価された理由の1つといえそうだ。

シンバイオ製薬(780円、前週比+14.4%)

 5月18日に+12.1%、20日に+12.4%と伸びるタイミングがあり、一時ストップ高となった。主な材料は、米国からの資金流入およびサル痘の感染拡大などが考えられる。

 大手資産運用会社の米Heights Capital Management社に対して、300万株分(普通株100万株、新株予約権200万株)の第三者割当を行うことが5月16日に発表された。Heights社からシンバイオに対して投資の打診があり、資金調達の提案を受諾した。シンバイオとしても米国などで抗ウイルス薬ブリンシドフォビルの臨床開発を予定していることから、世界有数の資産運用会社による保有が米国での開発資金調達や提携に有利と判断した。

 Heights社から打診があったという経緯から、100万株の普通株は長期保有が前提となり、これが上値の重しとはならないと考えられた。また新株予約権は行使価額が785円に設定され、これが当面の下値として意識されたことから、売り方も警戒するところとなり、600円台前半だった同社の株式に買いが集まったと思われる。

 また、20日の上昇は「サル痘」が原因のようだ。米国や英国、カナダなどにおいて、サル痘を発症する患者が相次いでいるとの報道が19日から20日にかけて多くなされ、材料視されたと思われる。サル痘はサルで見つかったウイルス感染症で、天然痘と同じオルソポックスウイルス属のサル痘ウイルスによって生じる。国立感染症研究所によると、天然痘に似たような症状を呈し、ヒトでの致死率は1~10%程度と報告されているという。

 米疾病予防管理センター(CDC)はこのサル痘に対する予防や治療に有効なものとして、天然痘ワクチン、免疫グロブリン、テコビリマットに加えて、抗ウイルス薬のシドフォビル(ブリンシドフォビル)を挙げている。ブリンシドフォビルは、シンバイオ製薬が3年前に米企業から導入しており、同社への連想買いがあったものとみられる。ブリンシドフォビルは天然痘治療薬として2021年に米国で承認されている。

 もっとも、シンバイオ製薬が保有する権利には、天然痘とサル痘を含むオルソポックスウイルス属の感染症が除外されている。このため同社が直接的にサル痘治療薬としての開発に関与することは、現時点ではあまり考えられなさそうだ。

 なお、同社の主力製品である「トレアキシン」に関して、後発薬の参入リスクがくすぶっている。これに関して、Meiji Seika ファルマは5月11日、6月に想定される薬価基準収載についてこれを見送ると発表した。訴訟リスクへの判断かどうかは不明だが、主要な後発薬企業が発売延期の判断を下したことにより、後発薬リスクが一歩後退したとの観測もありそうだ。

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順位社名株価(終値)騰落率
5月13日5月20日
1ペルセウスプロテオミクス37352741.3%
2ジーエヌアイグループ1014121019.3%
3ステムセル研究所3880450016.0%
4シンバイオ製薬68278014.4%
5モダリス4224609.0%
6キャンバス1771917.9%
7オンコリスバイオファーマ5656067.3%
8サンバイオ107111456.9%
9ユーグレナ8158666.3%
10DNAチップ研究所4074326.1%
11ステムリム7047476.1%
12スリー・ディー・マトリックス3203395.9%
13フェニックスバイオ5295585.5%
14ソレイジア・ファーマ77815.2%
15ヒューマン・メタボローム・テクノロジーズ5886103.7%
16Green Earth Institute7037283.6%
17ヘリオス7687953.5%
18そーせいグループ114011783.3%
19オンコセラピー・サイエンス63653.2%
20クリングルファーマ5565733.1%
21ラクオリア創薬7387603.0%
22レナサイエンス3934042.8%
23テラ75772.7%
24窪田製薬ホールディングス1391411.4%
25デ・ウエスタン・セラピテクス研究所2032051.0%
26総医研ホールディングス2952960.3%
27アンジェス3653660.3%
28ファーマフーズ172817290.1%
29メディネット48480.0%
30ブライトパス・バイオ86860.0%
31ファンペップ2042040.0%
32メディシノバ310309-0.3%
33カイオム・バイオサイエンス168167-0.6%
34カルナバイオサイエンス885869-1.8%
35サスメド874858-1.8%
36ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング536526-1.9%
37ナノキャリア222217-2.3%
38メドレックス110107-2.7%
39リプロセル202196-3.0%
40セルソース33953285-3.2%
41リボミック174168-3.4%
42タカラバイオ19861917-3.5%
43免疫生物研究所312300-3.8%
44セルシード148141-4.7%
45ペプチドリーム17931631-9.0%
46ステラファーマ495448-9.5%
47トランスジェニック387350-9.6%
48プレシジョン・システム・サイエンス430380-11.6%
49Delta-Fly Pharma932789-15.3%
50キッズウェル・バイオ358270-24.6%