アスクルの個人向けインターネット通販事業を巡って、同社とヤフーの対立が深まっている。ヤフーは同事業の譲渡の可否について検討するよう強く求めていたとされるが、「意向をうかがったに過ぎない」と7月18日に反論した。19日、日経ビジネスの取材に応じたアスクルの岩田彰一郎社長は「ヤフーの反論は事実と異なる」との見解を示した。ヤフーの親会社がソフトバンクグループとなったことで関係が変わってしまったと明かした。

アスクルの岩田社長(撮影:佐藤久)
アスクルの岩田社長(撮影:佐藤久)

ヤフーは個人向けインターネット通販のLOHACO(ロハコ)事業の譲渡の可否を求めたことについて、「意見をうかがったに過ぎない」と18日のニュースリリースで反論しました。

岩田彰一郎・アスクル社長(以下、岩田):非常に不自然なことだ。1月15日にヤフー側から、ロハコのヤフーへの譲渡について取締役会で議論し、機関決定をした上で回答するよう求められていた。明確にヤフーへの譲渡の可否について検討するよう要請があったのは間違いない事実だ。ロハコは両社で「共同運営する」との契約があるため、ヤフーは我々に直接譲渡を求めることはできない。そのため「検討を要請」との表現となっているが、我々は事実上、譲渡を求められたと受け止めている。

ヤフーのニュースリリースでは、アスクルの社外取締役でオフィス用品販売のプラスの今泉公二社長により「ロハコ事業の譲渡を考えるべきだ」との発言があったため、「意見をうかがった」とあります。

岩田:物流拠点の火災や宅配料金の値上げがあり、今泉さんはロハコについて、(黒字化に向けて)もう少し時間がかかることを理解していた。ただ、ロハコ事業を譲渡すればアスクルの企業価値は4000~5000億円になるとヤフー側から伝えられていたようだ(現在の時価総額は約1500億円)。だから、プラスとして岩田の再任に反対という判断をしたのではないか。

プラスの今泉社長がヤフーに利用されてしまったのでしょうか。

岩田:その可能性は大いにあり得ると思う。

8月の株主総会で議決権ベースでは6割をヤフー陣営が握ることになり、負け戦の様相です。

岩田:60%の議決権を握られているのは事実で、負け戦ということになる。ただ、アスクルとしてはむやみな訴訟などによる解決は望んでいない。あくまでのヤフーの川辺健太郎社長と話し合いをして、解決をはかっていきたい。親会社として子会社の独立性を維持するとしながら、それを揺るがし、ガバナンスの問題があるにもかかわらず闇に葬り去ろうとしている。

アスクルの創業者として、社長の職にしがみつこうとしているようにも見えます。

(写真=佐藤久、東京・江東区)
(写真=佐藤久、東京・江東区)

岩田:トップにすがりつきたいわけではない。いつかはバトンタッチをする時がくるということはわかっている。何よりも、正しい形で役員が選任され、顧客や取引先のことを考えて経営をするというのが重要だ。僕は社長職でなくてもいい。安心してアスクルとして経営できる環境を作りたい。

ヤフー側と明確な意見の相違はいつから発生したと考えていますか。

岩田:2012年に資本業務提携をした際、独自価値を持ったインターネット通販にしようと考えていた。だが18年にソフトバンクがヤフーの親会社となって以降、ヤフーのガバナンスの状況について疑問を感じ始めた。

ヤフーで社長が宮坂学さんから川辺さんへ代わったことも影響していますか。

岩田:確かに我々とヤフーとの関係性は変わってしまった。ただヤフーとアスクルの経営陣同士が仲違いしたわけではない。親会社(ソフトバンクグループ)の存在があって、中国のアリババ集団のモデルを追いかけるなかで相当なプレッシャーがかけられていたのではないか。彼ら(ヤフー)もかわいそうな立場とも言える。

アスクルの未来をどのように考えていますか。

岩田:日本型のオープンプラットフォームを作ることだ。米国型の独占的なプラットフォームを作ることではなく、情報の民主化を進める。アスクルではメーカーなどとデータを共有している。持続可能なプラットフォームとして社会のインフラの礎を作っていきたい。

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