9223 ASNOVA 足場で業界に新風を吹き込む by宇佐見聖果

2023年10月24日

2023年5月28日(日) 東京勉強会に登壇いただきます。

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9223 ASNOVAレポート_230527

くさび式足場とは 

同社の事業の主役である、くさび式足場について説明したい。
用途によって複数の種類がある足場の中でもくさび式足場は一般住宅、中高層建築、狭小地などで使用されることが多く、さらに組立てや解体が簡単であり複雑な形状の建物にも対応できることから活用の幅は比較的広い。

■足場の用途別、構造別分類表

出所:一般社団法人 中小建設業特別教育協会HPの資料を基にリンクスリサーチ作成

基本部材構成は9つ。ジャッキ、支柱、手摺、踏板、ブラケット、筋交、鋼製階段、先行手摺、壁当てジャッキ。これらをハンマー1本で組み立て、解体する。

■くさび式足場

出所:株式会社ASNOVA HP

会社成長の要は人事制度

既成概念を打ち破る発想で成長を重ねる同社のユニークさの源泉は、試行錯誤しながら作り上げてきた独特の人事制度にある。この人事制度のベースとなっているのが、「KATARUVA」。「KATARUVA」は、各部署から10名程が集まり1泊2日の合宿形式で、会社の成長へ向けてキーとなるテーマで話し合うシステム。年に4~5回程度の開催を予定しており、順次全社員が参加する。年齢もキャリアも異なるメンバーが普段と異なる環境に集まり、各々の価値観をぶつけて受け止め合う場。この場から事業のクリエイティビティの芽が生まれ、各社員の中に自社の事業を自分事として捉えるマインドも育つという。

「KATARUVA」をベースにして同社の人事制度には他にも、全社員へ複数のコースの中から選択した本を毎月1冊配布したり、学費を会社が負担し、外部教育機関を受講する制度などを組み合わせた「ASNOVA WAY」や、新規事業の事業責任者を社内で募る「ASNOVA Challenge System」といったものがある。

■ASNOVA WAY、施策の枠組み

出所:同社オウンドメディア「カケルバ」記事

こうした制度ひとつひとつについても、各社員がアイディアを出し合う中から作り上げられていったものだがその裏には、上田氏が自身で長年模索した先にたどり着いた気付きがある。

会社が成長するためにはそれを構成する社員個々の成長が不可欠との信念を、同社の舵取りを始めた頃より抱いていた上田氏は最初、外部の知見に100%頼って人事制度の構築を進めていくことにした。ところが、専門家が提唱する制度をいくら導入しても、手を変え品を変え試してみてもうまくいかない。何故かと思考を深めた先に至ったのが、究極的には自分達が本気になって思考し組み立てなければいいものなどできようがないという気付き。その時から上田氏は、会社の存在価値や方向性を根本から捉え直す文化を社内に根付かせていく。少しずつ、各社員が自分事として会社の事業を捉え、自立心が育っていき、会社丸ごとがバランスの取れたひとつのチームへと変質していく。これが現在、同社の強みの根幹にある。

■「KATARUVA」の様子

出所:同社HP

主軸事業、国内での足場レンタル

同社の顧客は、個人事業主も多くを占める、足場施工業者や工務店など。レンタルしているのは、主に高さ45mまでの低中層建物の工事で使用するくさび式足場。利用シーンは、住宅の新築やマンションの修繕、イベント会場の設営、自然災害で被った被害の復旧作業など。事前に詳細な工程が組まれない場合も多く、使用する前日に発注を受けることもしばしば。足場を必要とする地域に区別はなく、全国津々浦々にこのような需要が存在する。この需要に応じるためには、いかに全国各地に隈なく拠点を張り巡らせられるかが勝負となる。

同社が中小規模の事業者を主なターゲットとして足場に特化したレンタルへ事業の軸を移したのはまさに、こうした需要に応えていくことが目的であった。当時、全国で足場レンタルを専業に手掛ける企業は同社を除いて他になかった。開始した当初から需要が供給を上回る状況で、毎回、同社が拠点である機材センターを新設するや否や注文が埋まる。設立から約10年経った現在も、中小規模の事業者を主なターゲットとして足場特化型レンタル事業を展開しているのは全国で同社のみ。

同社は注げるキャパシティを最大限投じて現在までに機材センターを全国19カ所設けてきたが、未だに需要が供給を超過している状態であることから、今後も当面の間、同社の事業は国内での足場レンタルを軸に展開されていくことになる。そこで焦点となるのは、今後どのような計画で全国各地からの足場レンタルへの求めに応じていくかとなる。

■機材センター

出所:同社オウンドメディア「カケルバ」記事

拠点数の開設をペースアップ

手段として一つ目は、同社が直営で運営する機材センターの開設ペースを増加させていくこと。同社はこれまで、土地の買い取りによって機材センターの開設を進めており、今後もこの方法は変わらない。土地の購入は間借りするのと異なり地主との交渉が伴うため、地主の意向によっては延期やキャンセルもあり得る。一筋縄ではいかないものだが、それを踏まえた上で今期(2024年3月期)以降は年間2ヵ所の開設を必達目標に掲げている。

パートナー事業「ASNOVA STATION」をスタート

もう一つの手段として同社は、2022年10月よりパートナー事業「ASNOVA STATION」をスタートさせた。地方の事業者からパートナーを募り、レンタル業務を代行してもらう仕組み。これまでどうしても埋めてこられなかった、都市と地方との間にある需給バランスの差を解消していくことが目的。スタートからまだ8ヶ月あまりの現在、既に8件のパートナーが稼働しており順調な立ち上がりとなっている。このパートナー事業では、同社の収益はレンタルされると都度発生する。同社が直営でレンタルする場合の料金を10とした場合、同社の取り分が7、パートナーの取り分が3と計算される。


出所:同社開示情報を基にリンクスリサーチ作成

第二の拠点ベトナム、本格的に投資を開始

国内での事業拡張と並行し同社は2022年10月、ベトナムに子会社「ASNOVA VIETNAM」を設立、ベトナムでの事業をスタートさせた。

足場をレンタルする文化が既に普及している日本に対し、ベトナムをはじめとする東南アジアでは足場は大量生産大量廃棄されてきた。しかし近年では、経済発展に伴い建設業界の体制が整ってくる中、確実にコストダウンにつながるレンタルが少しずつ浸透してきている。その証拠に建設機材の中でも発電機など高価格帯のものは既にレンタルが普及してきている。近い内に足場のレンタルも浸透していくことは間違いないだろう。さらに、レンタルにふさわしいのは性能の良い機材。メッキ加工にロボットが寸分の狂いなく溶接を施した日本の足場は現地のものと比べて安全性が高く耐用年数は5~6倍。これが現地で受け入れられないはずはない、と踏んだ同社はベトナム進出へのタイミングを見計らって進行した。

既に現地へは1000トンの足場の輸送を終えており、第1号の機材センターも開設済み。与信管理の難しさや日本との商習慣の違いから苦労する面は多いものの現在、手ごたえを感じているとのこと。同社はこの地でのビジネスを国内に匹敵するものへと成長させることを目標にしている。

■「ASNOVA VIETNAM」、拠点第1号となる機材センターで安全祈願祭(2022年12月)

出所:同社オウンドメディア「カケルバ」記事

期待の新規事業

足場レンタルのその先を常に見据える同社は、新規事業へ挑む姿勢にも妥協がない。今期(2024年3月期)新たにスタートした新規事業を紹介する。

「ASNOVA市場」 2023年5月開設

くさび式足場を主に販売・買取を行う仮設機材の総合サイト。仮設機材の販売は全体収益の内10%強の収益を占めてきた同社既存のビジネスであったが、販売の場をECサイトに移すことによって効率化、多種品目の取り扱いを目指す。新品販売だけではなく中古機材の買取・販売サービスも手掛け、到来しつつある循環型社会への実現へ貢献する。

■「ASNOVA市場」トップページの切り抜き


出所:「ASNOVA市場」HP

業績

■売上高および営業利益率(通期)

出所:同社開示情報を基にリンクスリサーチ作成

相場の影響

コロナ禍、粗鋼を中心に材料相場が高騰し、市場で販売される足場の価格が上昇。買い控えからレンタルへと需要が移った。この影響により、2021年3月期と2022年3月期の2期は機材センターの新規開設を行わなかったにも関わらず顧客は例年と同程度の水準で増加、売上高も順調に成長した。

足場のレンタル料金

同社が提供する足場のレンタル料金は、基本料金とレンタル単価の合計で計算される。基本料金はレンタル単価のおよそ20日分の金額。レンタル単価は最低料金を1か月分とし、1か月を超える場合は1日単位で加算する。レンタル料金は例えば、新築住宅1棟4面を施工する場合、工期は大体3ヶ月で総額10万円程になる。

足場の性質

足場への投資額は5年の期間で減価償却を行い費用計上する。稼働率が一定を保ち、足場保有額を一定の保有量になるまで投資することを前提にすると、投資をストップした場合のシミュレーションは過去に投資した分の減価償却が終了する時点で営業利益率の急改善が想定される。鉄を素材とするくさび式足場に実質的な耐用期間はなく、適切なメンテナンスを施す限り使用することが可能。つまり一旦投資を行った機材については補充に要する費用を基本的には必要とせず、減価償却の終了後は高い利益率が期待される。


※EBITDAは、同社開示資料を参照し営業利益+(売上原価中の)減価償却費としてリンクスリサーチが算出したものを使用しており、同社が開示するものとは異なる数値を使用している。


出所:同社開示情報を基にリンクスリサーチ作成

KPI

需要が供給を上回り続けている足場レンタル業界で単独猛進する同社の業績は、機材センターおよび足場に対する投資額に対してダイレクトに比例する性質を持つ。

2年ぶりとなる機材センターの開設、かつ例年は最大でも1年に1拠点であったところ2拠点の増設を達成して過去最高額となる24億円の投資を行った2023年3月期。背景には、コロナ禍で投資を控えていた2期分の増分もあったが、それよりも大きな後押しとなったのは2022年4月の上場。この実績によって金融機関からの資金調達が以前と比べて格段に容易になり、投資へ充てられる金額が一気に増えた。今期以降も積極的な資金調達の元で投資を継続していく計画であり、比例して成長のピッチが上がるものと予想される。

■足場への投資額

出所:同社開示情報を基にリンクスリサーチ作成

                                                           以上

2023年10月24日成長株投資, 銘柄研究所

Posted by usamiseira