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上場会見:M&A総合研究所<9552>の佐上社長、DX・AIで営業に集中

28日、M&A総合研究所が東証グロースに上場した。初値は公開価格の1330円を88.72%上回る2510円を付け、2292円で引けた。後継者不在で事業承継ニーズがあるしている。佐上峻作社長が東京証券取引所で上場会見を行った。

事業の特長である完全成果報酬制と短い成約期間、採用力について説明する佐上社長
事業の特長である完全成果報酬制と短い成約期間、採用力について説明する佐上社長

―初値が公開価格を上回った感想は
投資家から高い評価を得たことにまず感謝している。当社に対しての期待も非常に大きいことを痛感したので、今後その期待に応えられるように、経営努力をしていきたい。

―投資家からは M&A 市場への期待も感じているのか
伸びるマーケットであることは、個人・機関投資家の共通認識として持っている印象だった。

―上場の狙いは
荻野光CFO:採用で、求職者や転職者に対する知名度や信頼度(の向上を狙う)。一方で、顧客に、M&Aの仲介を任せてもらえるよう会社として信頼してもらえるのが非常に大事なので、知名度や信頼の獲得が最も大きな目的だ。

公募増資はそれほどしていない。我々は今、キャッシュリッチな状態なので、このタイミングで、特段資金が必要というよりは、信頼を獲得するために上場した。

―M&A業界について最もレガシーで非効率だと感じた部分は
佐上社長:M&Aの仲介会社を顧客サイドで使ったことがあったが、とにかく速度が遅く、IT化が進んでいないゆえに、非常に効率が悪い業務内容になっていると感じた。そういったところをITやDX、AIを使うことで時間の短縮にしっかり注力している。

―速度が遅いとは具体的にどのようなことか
例えば、マッチングの部分を人力でやっている。(当社も)人力でやることはあるが、人力でやってしまうと、「おそらく買う」という会社を見つけ出そうとした時に、全部リストアップしなければならないが、我々はその部分をAIのテクノロジーを使うことによって即座に出すことができる。

また、例えば、「売りたい」という会社案件を発掘する、いわゆるソーシングの際にも、他社では営業担当者が手紙を1通ずつ折るなど非常に効率が悪い。我々はシステム上でボタンを押すと手紙がそのまま発送されるようなシステムを作って、効率的に運用している。手紙の送付や稟議申請を全てボタン1つでできる仕組みになっている。

ほかにも、我々はNDA(秘密保持契約)を結ぶ機会が非常に多いが、それに関しても、自動で会社名や日付を入力するシステムを独自で開発し、細かい業務を全部DX化させている。

―M&Aには法律事務所などいろいろなプレーヤーが関係するが、そのような関係者もまとめて効率化できているのか
M&Aの業務は、売り案件を取ってくるソーシングと、案件と買い手を結び付けるマッチング、法律事務所などが関わるエグゼキューションの3フェーズに分かれるが、前者のソーシングとマッチングに関してDX・AI化しており、エグゼキューションは現時点ではDX化を進めていない。改善の余地はあると見ている。

エグゼキューションの部分では、例えば、書類でいえば決算書30期分を全部スキャンするなど非常に効率が悪い。紙がないなどいろいろな問題があり、クラウド化させることは今後できるのではないか。

―その部分を、ビジネスとしてこれから取り組んでいくことはあり得るのか
現状ではできる範囲でやっていきたい。ただし、そこに注力してしまうとサービスの質が落ちる恐れもあるので、しっかり見極めたうえでの判断になる。

―採用力が強みとのことだが、具体的には
採用に関しては、AIとDXの技術に惹かれて(応募者が集まって)いる面がある。効率的に営業活動ができ、会社のカルチャーとして、営業の人がすべきことは、顧客と向き合うことが仕事だと思っている。例えば、手紙を折るといった作業などはしなくてもよく、事務の人がするか、全部DXなどで機械化してシステム自体を全部自社で作るスタンスだ。

そのようなカルチャーがあるがゆえに、営業担当者をエンパワーする。今までは雑務と呼ばれるような仕事に追われることをなくして、しっかり集中できる環境を作ることが採用にもかなり効いていると考えている。

ほかの仲介業者に入社しても、大きく言えば行う業務は一緒なので、そのなかで最も労働生産性が高く、自分のパワーを発揮できる環境という点で、差異がある。

―今期末にアドバイザーが70人を超えるが、今後も毎期数十人ずつ採用して拡大するのか、それともある程度のところで足場を固めるのか
荻野CFO:具体的な数字を明確には伝えられないが、増やす方向であることはその認識で間違いない。

―矢吹取締役の経営管理手法が独特のもので、社内の労働生産性が上がっているとのことだが、どのようなものか
矢吹明大取締役:キーエンスという会社にいて、そこが売り上げを上げるために、例えば、何件訪問すればいいだとか、その件数を訪問するためには何件に電話をすればいいか、その前のプロセスまで全部分解することによって、ほかの人と比べてどのプロセスが劣っているから、あまり成果が出ないか見える化できる。簡単に言うとそれを取り入れている。

日本M&Aセンターにも在籍していて、そのようなプロセス管理をしていなかったが、当社ではプロセス管理を取り入れることで営業が効率化できている。また、自分の何が悪いか、ほかの人と比べて成果が出ていないのか分かりやすくなっている。

―今後の具体的な成長戦略は
荻野CFO:我々の成長のドライバーは、M&Aのアドバイザー数なので、きちんと伸ばすことが大事であり、引き続き採用にコミットする。

―案件単価の上昇や1人あたりの件数の向上に向けて具体的にどのようなことをするのか
1人あたりの売上高は、受託案件数と成約率、単価に細分化した指標によるが、案件数についてはシステム化だ。新しく入ったアドバイザーの教育を効率的に進めて、アポイントの獲得から契約締結までを早期にできるようにしていく。

成約率はAIの精度を強化する。当社で扱った案件が増えていけばAIの精度も高まるので、時間とともに改善する。アドバイザーが持ってきた案件をマッチングさせるマッチング部門があり、その人数の増加も指標となるので、採用が重要になる。

単価は、大型案件獲得のために動いているが、いたずらに大型案件ばかり狙うとボラティリティーが高まり、ホームランバッターのようになってしまうので、いたずらに上げすぎず、コンスタントに案件を組みつつ大型案件も少しずつ増やす方針でいる。

―最近のM&A市場全般の話として、手数料が高くなり頼みにくいという話を聞くが、業界の動向はどうか
佐上社長:当社を含め上場4社に関しては、高い水準であるが、それなりの規模の会社が多い印象だ。あまり規模の大きくない顧客にとっては高く感じるようだが、そのような顧客はどちらといえばM&Aのプラットフォームを利用して手軽にM&Aをする。

投資銀行が時価総額100億円以上の会社の案件を手掛け、我々のような仲介業者が数億円から100億円までの案件に取り組み、それ以下に関してはプラットフォームを使うというように、今後は棲み分けがなされていくのではないか。

―大型案件の話だが、海外案件はどのような状況か
現状では1社もない。ただ、今後に関して、東南アジアの市場で、今後10年から数十年の単位では事業承継の問題が起きる可能性はある。市場環境が良くなったタイミングでの参入はあり得るが、今の段階では特に考えていない。

―ROEについて
荻野CFO:基本的には高い水準を求めていきたいが、投資家との会話のなかで適正な水準を探りながら方針を決めていきたい。今すぐにこうだというものは決めていない。

―配当政策について
近々での配当は想定していないが、投資家との会話で決めていこうと考えており、数年後に配当を始める可能性は十分にある。ただ、1株あたりの金額や配当性向はその時の市場の状況を鑑みて決める方針だ。

[キャピタルアイ・ニュース 鈴木 洋平]

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