2018.11.20

ゴーン追放はクーデターか…日産内で囁かれる「逮捕の深層」

ルノーとの間に生じていた「歪み」とは

日本を、いや世界を震撼させた「ゴーンショック」はなぜ起こったのか。長年自動車業界を取材し続け、ゴーン氏へのインタビューも何度も行ってきたジャーナリストの井上久男氏の深層レポート。

「重大な不正」の中身は?

日産自動車のカルロス・ゴーン会長が11月19日、金融商品取引法違反の疑いで東京地検特捜部に逮捕された。容疑内容は、虚偽の報酬額を有価証券取引書に記載していたこととされる。2011年3月期から15年3月期までの計5年間の役員報酬額が実際には99億8000万円だったのに、計49億8700万円と記載していたという。内部通報によって日産が社内調査、それを検察に情報を提供し、事件になった。

このニュースを聞いて、多くの人は「脱税目的か」と思ったに違いない。しかし、それは読み筋が違うのではないか。ゴーン氏はサラリーマン経営者であり、報酬は源泉徴収されており、日産から得られる報酬では脱税できない。また、ゴーン氏は日本には1カ月のうち1週間程度しか滞在せず、主にパリとニューヨークに住んでおり、住民票は日本にはないので、日本で住民税を払わない。

 

ゴーン氏がなぜ虚偽記載したのか、その動機は特捜部が今後捜査で解明していくのだろうが、虚偽記載してそれがばれなかったとしても、源泉徴収されているので、ゴーン氏には「実利」がない。なのに、なぜ虚偽記載したのか。

筆者は20年近く日産を取材してきた。これまでの取材や関係者の話から推測すると、ゴーン氏が虚偽記載した理由は、「自分の報酬を大きく見せたくなかったから」ではないか。

ゴーン氏に近い日産の元首脳が筆者にこう明かしたことがある。

「日本では報酬が10億円を超えるともらい過ぎと批判されるので、10億円は切るようにした方がいいとアドバイスを送った」

虚偽記載については、悪質なものではないのではないか、と筆者は考える。むしろ悪質なのは、日産もプレスリリースで認められているように、「会社のお金を私的に支出していた複数の重大な不正」の方だ。背任に近い行為かもしれない。

この重大な不正については、現時点での日産の社内関係者らの話によると、以下のようなことが推測される。

① 前妻との離婚の訴訟費用を会社の金から支払った可能性
② ニューヨークなどに対外的に公表していないゴーン氏の個人事務所があり、その関連費用を会社の金から支払った可能性

あくまで可能性だが、この2点以外にも「フランスのベルサイユ宮殿を借り切って再婚相手と結婚式をしたが、その費用も日産が出したのではないか」(関係筋)との話も出て来るほどだ。

かねてより、こうした噂は日産社内では絶えなかった。それは、ゴーン氏が「カネに汚くて強欲」と一部の社員から捉えられていたからだ。

たとえば、日本で最初に自著『ルネッサンス』を出した時、印税は自分の懐に入れ、日本語訳や校正などで協力した日本人社員には分け前を渡さなかったという逸話が残っている。通常、大企業のトップが自分の実績を誇示する本を出した場合、印税は会社に入れるか、寄付するケースが多いが、ゴーン氏はそうではなかった。

ただ、こうしたゴーン氏の金銭にまつわる話や、公私混同ぶりは日産の役員や一部幹部の中では知られていた話で、なぜ、今になって「内部通報」が起こり、事件になったのか。本稿の主眼はそこにある。

はっきり言おう。これは「日産の社内クーデター」とみるべきではないか。さらに言えば、西川廣人社長兼CEOサイドがゴーン氏を引きずりおろすために、日産が検察当局と手を組んだ可能性もあるのでは、と筆者は見ている。

ゴーン氏の逮捕後に出てきた日産のプレスリリースの内容を見ると、この日を用意周到に待っていた節が窺える。

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