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Eストアー(4304) ECシステム提供からコンサルへ。7年ごとの事業の柱で成長


今回は、Eストアー(4304)を訪問して来ました。

Eストアーの本社は、東京都港区西新橋1丁目の住友生命西新橋ビルにあります。地下鉄銀座線の虎ノ門駅や都営三田線の内幸町駅から歩いて2~3分の距離という便利な場所にあります。Estore_entrance.jpg (864 KB)

この辺りは、オフィスビルが立ち並ぶビジネス街であり、またそこで働く会社員向けの飲食店も多い街です。

エレベータを降りると、広くて綺麗なエントランスが目に飛び込んできました。電話で来訪を告げた後、ソファで待っていたのですが、ソファの横には販促資料が沢山置いてあり、それらは全て持ち帰り自由になっていました。

Eストアーの事業は、過去より大きく3つに変遷し、7年ごとに新しい事業をスタートしてきました。
最初は「レンタルサーバー事業」、次に「ECシステム事業」、そして「マーケティング事業」です。
順番に見て行きましょう。

1. アスキーでEC発展を確信。創業時はレンタルサーバー事業で基盤構築

PCやスマホを使う人であれば、当たり前のように利用するようになったインターネットショッピング。経済産業省の調査によれば、2017年の日本国内のBtoC-EC(消費者向け電子商取引)市場規模は、今や16.5兆円(前年比9.1%増)にもなっています。

Eストアーは、この拡大を続けるEC市場で、ネットショップの支援事業を行っています。

Eストアーは、現代表取締役社長の石村賢一さんによって創業されました。

石村さんは1962年東京生まれ。学生だった1986年に大学を中退して株式会社アスキーに入社します。今でこそアスキーは現在のカドカワ(9468)に吸収され、消滅会社になっていますが、石村さんが入社した当時は非常に勢いのある会社でした。

石村さんはアスキーで技術を担当し、またネット関連子会社の取締役などを歴任し、ECの発展について確信を持つようになります。

しかしながらアスキーは、1998年にプロバイダー事業からの撤退を決定したため、それに伴い石村さんも退社する決断をしました。そして1999年2月の「株式会社イーストアー」(2003年に「株式会社Eストアー」商号変更)設立に至ります。

当時、日本最初のオンラインモール「楽天市場」がオープンして1年半。「Yahoo! Japan」は検索サイトとして人気はありましたが「Yahoo! ショッピング」は開始前、「Amazon.co.jp」もオープンしていないという状況で、一般的にはオンラインショップの先行きは不透明と思われていた時代でした。

そのような中でEストアーは、1999年7月にホームページにショッピングカート機能を設置できる「ストアツール」と、9月にショッピングカート付レンタルサーバー(ホスティングサービス)の「サイトサーブ」を始めます。

当時、日本でホスティングサービスは始まって間もなく、ADSLが普及した時期とも重なってレンタルサーバー事業は大いに受け入れられました。営業力のある当時の大阪有線放送社(現:株式会社USEN-NEXT HOLDINGS(9418))やプロバイダーのSo-net(現ソニーネットワークコミュニケーションズ株式会社)などと販売提携した戦術も当たりました。

これにより業績は大きく伸長し、2000年3月期は2億8200万円だった売上が、その一年後の2001年3月期には12億3300万円と、一気に4倍以上になりました。

2. 第2の成長エンジンであるECシステム事業「ショップサーブ」

Eストアーでは、スタートアップ時にレンタルサーバー事業の好業績があったおかげで、この間にEC支援システムの充実にも力を注ぐことが出来ました。それは、独自ドメイン(本店)総合支援サービス「ショップサーブ」の提供開始(2006年1月)となって現れます。現在のECシステム事業です。

この頃になると国内のネットインフラも整い、オンラインショッピングの需要が格段に高まり、今度はEC支援システムが成長エンジンとなって2006年3月期には売上20億円を超えていきます。

ECシステム事業は、定額のECシステム利用料(固定料金)とネットショップでの販売額に比例して発生する利用料(従量料金)から成ります。Eストアーが提供しているECシステムを介した売上が増えれば、従量料金が増えるため、Eストアーの売上も増加します。

レンタルサーバーやシステム利用料は毎月一定額の売上になりますから、顧客の事業規模に関わらず、ともかく顧客数を増やして、売上を伸ばしてきました。

しかしながら次第にレンタルサーバー事業は完全な価格競争の時代となり、またEC利用者が増えれば増えるほど、ECシステムも低料金の競合が出現するなど、顧客数の増加だけでは収益が苦しくなるのは目に見えていました。

3. さらにマーケティング事業へ

一方、ECにおけるマーケティングは日に日に重要性が増してきました。そこでEストアーでは、2011年6月にWebマーケティングの専業である株式会社プレシジョンマーケティングの株式49%を取得し、連結子会社としました。これによりEストアーは、ECシステムの提供とマーケティングサービスの会社となりました。

ただ、この戦略には「顧客層の転換」という難問もありました。マーケティングサービスで収益を得ようとすれば、それを利用する顧客も一定の規模がないと費用が払えません。そこで、規模を見込める顧客をターゲットに営業活動を進めてきました。そのためこの転換期にあたる2014年3月期頃からは売上では横ばいが続いていましたが、2011年3月期には売上のなかったマーケティング事業が、2018年3月期には売上の22%、11億3100万円を売り上げるまでになり、全体売上も50億円を突破し増収となっています。また顧客層の転換は、販売額に比例して発生する利用料(従量料金)の売上にも好影響を与えています。

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<2018年3月期 決算資料>

(なお、2016年1月にEストアーは、プレシジョンマーケティング株の相当数を同社に譲渡して、連結対象から外しています)

このようにEストアーでは、ほぼ7年ごとに新しい収益事業を生み出して実績を上げています。また次の収益軸づくりに向けた「販促システム」の準備も着々と進められているようです。外部環境の変化を敏感に感じ取り、注力する事業を見据えて経営を行っていると感じます。

4.「EC本店」というターゲット

一般にネットショップは「ECモール店」と「EC本店」に大別できます。

ECモール店は、Amazonや楽天市場などが主催するモールに出店しているネットショップです。

一方EC本店は、自社で運営し直販するネットショップです。Eストアーの顧客はこのEC本店を運営する事業者が顧客ターゲットになります。

「ECモール店」は、モール自体に集客力があり、出店者は他の出店者と同じシステムを利用し、顧客データは基本的にモールが保有します。ECモール店は、価格比較可能な大衆商品やナショナルブランド商品を販売するショップが主流になっています。

これに対し自社の特長が出しやすく、注文を受けた顧客データを自社で管理する「EC本店」は、専門商品などの販売に向いており、ロイヤルカスタマー作りに向いているとも言えます。

Eストアーでは、このEC本店に必要な販売システムを「ショップサーブ」という商品名でパッケージにして比較的安価に提供しています。そのため、初めてECに参入する企業にとっては、独自にシステムを構築するより、低いハードルでオンラインショップをオープンできます。

現在10,000店舗以上でショップサーブは利用され、中にはECモールに出店していながら、ショップサーブで独自のEC本店を構えるお店も多く存在するとのことでした。

EC本店への支援はシステム提供の他に、前にも述べたマーケティングサービスも行っています。具体的にはコンサルティング、Webショップの制作代行、広告出稿代行、受注管理などの運営代行です。

EC本店支援の主たる顧客イメージは、実店舗を構えつつ、ネットでも特徴ある商品を販売したいというお店で、(EC売上)月商数百万円から1億円規模と幅広い層が運営しているそうです。大手企業になると独自システムを立ち上げることも多いとか。ただ、そういった企業からもマーケティングサービス部分のみ支援してほしいと依頼が来るケースもあるとのことでした。

5.今後の市場は

既に16兆円を超える市場規模となった国内ECですが、野村総合研究所は2023年のBtoC EC市場の規模を約26兆円と予測しています(出典『ITナビゲーター2018』)。また、日本でのEC化率は約6%に対し、アメリカでは20%を超えているという報告もあります。

これらの数字から考えると、国内小売市場は頭打ちだとしても、リアル市場からEC市場へのシフトは今後本格的な拡大をすると思われ、Eストアーの現在の売上規模約50億円(2018年3月期)からみると、まだまだ拡大するEC支援のマーケット、成長市場での事業展開をしていると思われます。

景気の影響については、過去の売上推移を見てもリーマンショック、またはアベノミクスの影響はあまり受けていないように見えます。それは、先に述べたように7年ごとに事業の柱を増やしてきたという戦略の結果によるところが大きいかと思います。今後もしばらくは、景気の波というより、拡大するEC市場の勢いの影響力が強いとは思いますが、それを差し引いてみると、小売業を対象としているだけに、景気の影響が無いとは言えません。しかし対象とする業種が広いだけに、大きくは影響を受けにくいポジションかと思います。

インタビュー後記

Eストアーは、EC市場の黎明期に発展を確信し「日本中をウェブショップだらけにしたい」という思いで創業された会社です。それ以降、社名を「イーストアー」から「Eストアー」に変更したものの、一貫した事業ドメインでビジネスを展開している会社です。

創業から20年、ドッグイヤー(人間の7倍のスピード)と言われるインターネットを舞台としたEC市場で、適切な戦略で成長してきました。

まだまだ広大な市場があると思われますので、創業の強い思いと適切な戦略で今後も成長して、日本のEC発展に引き続き貢献してもらいたいですね!

以上

 

※当コンテンツは当社がアクションラーニング会員及びそれ以外の個人投資家に向けて、個別企業を見た印象を記事にしたものです。

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