ソフトバンク上級幹部の権力争い、孫氏のビジョンに影投げ掛ける
Pavel Alpeyev、Selina Wang、Giles Turner-
クラウレ氏はグループのシナジー追求のため40人のチームを構築
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チームはビジョン・ファンドのミスラCEOの下へ移管される
ソフトバンクグループについての孫正義社長の壮大なビジョンが、側近2人の権力闘争で後退を余儀なくされた。
マルセロ・クラウレ氏は約7カ月前に、ソフトバンクグループの最高執行責任者(COO)に昇格した。同社の投資先企業全般の業務改善と、ウーバー・テクノロジーズやウィーワークなど新興企業間の協力を促すのが使命だった。しかし同氏は最初から、1000億ドル(約10兆9800億円)規模のビジョン・ファンドおよび孫氏にとって最重要な投資先の多くを統括するラジーブ・ミスラ氏と衝突した。事情に詳しい複数の関係者が明らかにした。
数カ月にわたる争いの末、ミスラ氏が重要な勝利を手にした。クラウレ氏が使命を果たすために集めたチームはビジョン・ファンドへ、つまりミスラ氏の配下に移された。非公開の情報だとして関係者が匿名を条件に述べた。クラウレ氏チームの約40人は2月1日、電子メールでこの異動を伝えられた。採用されたばかりで、まだ業務を開始してもいないメンバーもいたという。ビジョン・ファンドにおけるシナジー追求は、クラウレ氏ではなくミスラ氏の下で進められることになった。
クラウレ氏のCOOとしての役割は縮小され、ビジョン・ファンドのポートフォリオ企業以外を担当することになった。電子メールによれば、シェアオフィス運営のウィーワークや半導体設計のアーム・ホールディングス、資産運用のフォートレス・インベストメント・グループなどが対象となる。ソフトバンクが設立する計画の中南米をテーマとした投資ファンドの運営が同氏の主な仕事になるという。家族とともに東京に赴任してから2カ月だが、かつて本拠としていた米フロリダ州マイアミへ戻ることを考えている。
クラウレ、ミスラ両氏は同時に行われたインタビューで、2人が対立しているとの見方を否定し、うまく協力していると述べた。
「われわれが共有している仕事への情熱を、緊張した関係だと誤解しないでほしい。日常的に行っているように、未来に向けたソフトバンクの大胆なミッションの実践と実現のために協力し続ける。変更が行われたのはそれがわれわれの業務にとって正しいことだったからだ」とクラウレ氏は語った。
体制見直しでクラウレ氏は後退を迫られた格好だが、真の敗者は孫氏自身かもしれない。テクノロジー企業に投資する巨大ファンドが掲げる「ビジョン」は、世界最高級のスタートアップ企業同士を協力させることだ。孫氏はこれを「ナンバーワン会社の群戦略」と呼ぶ。孫氏が意味するのは1プラス1が2以上になるということだ。しかし幹部2人の対立があからさまになった今、投資先企業群がうまく協力していけるかどうかにも疑問符が付く。
サンフォード・C・バーンスタインのアナリスト、クリス・レーン氏は、孫氏は「恐らく、この展開全体にいら立っているだろう」として、「孫氏が全てのことに関われればよいのだが、その時間がない。クラウレ氏が代わりを務めてくれることを望んだのだが、結果的には同等の力を持つ2人を対立させてしまった」と話した。
クラウレ氏は2013年、ソフトバンクが同氏の携帯端末卸売事業ブライトスターの過半数株を取得したのに伴いソフトバンクに加わった。米スプリントのトップに抜てきされて経営立て直しに手腕を発揮した後、TモバイルUSへの事業売却の合意を取りまとめ、昨年にはソフトバンクCOOとなり12月に東京に赴任した。
起業家の同氏は孫氏のビジョンを実践する最適の人材だった。クラウレ氏はポートフォリオ内の企業を育ててパフォーマンスを改善させたり、対政府関係といった重要な支援業務を手掛けたりするのに精通した幹部チームづくりに着手。同氏が作り上げる「ソフトバンク・オペレーティング・グループ」は200-500人規模のチームになるとされていたと関係者は語る。
しかしクラウレ氏がビジョン・ファンドの運営に食い込むのは難しかった。同氏は孫氏を説得し、自分とミスラ氏、ソフトバンクの最高戦略責任者の佐護勝紀氏で毎週、戦略電話会議を開くことになった。クラウレ氏は当初、詳細な資料を用意し自身のアイデアを説明したが、ミスラ氏はほとんど準備をせず思い付きのように発言した。クラウレ氏はミスラ氏に協力する意思がないのだと受け取った。
孫氏はクラウレ氏が全社の業務に関われるよう根回しを図った。だが、ファンドの最大の出資者であるサウジアラビアを中心としたパートナーらは、コンプライアンス(法令順守)上の理由から、ポートフォリオ企業を支援するチームはファンドの一部として、ミスラ氏の傘下にあるべきだと考えた。同氏とサウジ王家との間には同国によるファンドへの出資前から関係があった。結局、クラウレ氏はチームとともにビジョン・ファンドに付き従い、ミスラ氏の配下に入るかどうかの選択を迫られ、拒否したという。
孫氏は6日、四半期決算発表に伴い都内で投資家とメディアを前に語ったが、組織改編には触れなかった。同氏はこのところしばしば、度重なる技術変革を乗り越えて300年間生き延びられる企業を創り出す必要性を説く。それでも目先の課題は、拡大するポートフォリオを管理するとともに側近たちの自己主張を折り合わせていくという、もっと平凡なものかもしれない。
原題:Power Clash at Top of SoftBank Puts Son’s Vision in Question(抜粋)
(第9段落以下を追加し更新します)