CHANGE / SUSTAINABILITY

ステラ・マッカートニーが考えるファッションの未来。

持続可能なファッションのリーダー的存在であるステラ・マッカートニー。世界で最も有名なヴィーガン主義のセレブ一家の一員として育った彼女にとって、サステナブルライフとは、何か。幼少時代の話や現在の日常生活、ラグジュアリービジネスのあり方からファッションの未来について語ってくれた。

想像してみてほしい。1970年代、あるストロベリーブロンドの少女が、英国の田園地方に広がる野原で姉や弟と遊ぶ姿を。鳥や蝶が舞い、馬が草を食むピースマーシュの農場は、有機農業運動のヒッピー的先駆者であった少女の両親がイーストサセックスに築いた牧歌的な地である。それから40年。史上初めて環境保全主義や菜食主義を実践した世代の娘に当たるその少女は、ファッション業界において持続可能性を追求する世界的なリーダーへと成長した。そう、ステラ・マッカートニーその人である。

夕食時の家族団欒の話題は畑仕事のこと。

ステラ マッカートニー史上最もサステナブルなコレクションとステラ自身が語る2020年春夏コレクション。テイラードとアウターウェアのライニングには、オーガニックコットンとサステナブルビスコースの混合素材が使用された。Photo: GoRunway.com

「母と父は、現代とはまったく事情の異なっていた当時、時代を大幅に先取りしていました。それだけに、馬鹿にされたり攻撃されたりすることも多かった」とステラは語る。「でも、それは私たちの家庭生活の大部分を占めていたのです。夕食時の家族団欒の話題は、畑仕事のこと、土地を3年間休ませること、必要な肥料、生垣──いずれも当時から私たちが実践して試行錯誤を重ね、今になってやっと世界が追い付きつつあることばかり」

ここでステラは笑い出し、「まさか、ファッションに関する会話を農業の話題から始めるなんてね。最高じゃない!私たちは皆、母なる大地の上に腰を下ろしているのだから、当然よね。私のすることなすこと、ものづくりのやり方──そのすべてが大地に帰結します。今は自分の畑を持ち、有機栽培もしているのよ」と付け加える。「ただ、今後は新しい作物を栽培することも考えないと。残念ながら、すべては気候変動による温暖化のせい。それが現実。今現在も、畑付近では洪水が起きていますからね‥‥‥」

これぞ、ステラ・マッカートニーの強み。ファッションや自身について軽妙かつ陽気な冗談を飛ばすこともできれば、その一方でデザイナーとしてファッションが地球に与える影響の現実について抜群の知見を誇り、世間を啓発する役割をも果たしている。「私は、コップに半分水が入っていたら、ラッキーと思う楽観主義者。怒ったり恐れたりするのは、お断り」とステラは陽気に断言する。「仕事の面で言えば、世の中にある数千種類もの生地のうち、種類しか選択肢がないってこと。でも、私からすれば、それもクリエイティブな挑戦のひとつ!私にとっては、妥協でも制約でもないのよ」

マダガスカルの女性職人によるハンドメイドのラフィアヤシ製のハンドバッグが登場した。ステラ マッカートニー2020年春夏コレクションより。Photo: GoRunway.com

最近、ステラのインスタグラムには、「人々をインスパイアする情報が込められたファッション」を訴える彼女のメッセージが増えつつある。アンバー・ヴァレッタ(つい先日、ワシントンで気候変動への対策を訴えるデモに参加して逮捕された)とのツーショットの下には、「世界について責任を負うことを恐れない女性たちにインスパイアされて‥‥‥素材に日本製の再生ポリエステルとオーガニックコットンを使用した服を着用しています!」のキャプション。新作のサークルバッグに付記されたキャプションは「ベジタリアンレザーを使用したハンドメイドバッグ」。また、冬の広告キャンペーンには、エクスティンクション・リベリオン(イギリスで創設された環境保護団体)のメンバーである活動家たちを起用し、「気候変動の時代に生きる私たちには、これまでにないほどに行動を起こすことが求められています。今回のキャンペーンには世界を啓発する力を持つ活動家たちを起用し、力を合わせてより良い未来の実現を目指すブランドの姿勢を示しました」と自ら記した。

持続可能性に関する話題がファッション界の話題をさらったシーズンの半ばに発表された2020年サマーコレクションのバックステージには、気候危機についてコメントを得ようと騒ぎ立てるジャーナリストらに囲まれたステラの姿があった。「ついに、人々の意識は目覚めました。今こそ、人々に情報を与え、解決策を与え、取り組み、前向きな姿勢を持つべきだと思います」と彼女は語った。

重要なのは人々に望まれる 魅力を備えた服であること。

オーガニックコットン、サステナブルビスコース、再生ポリエステルをはじめとするサステナブルな素材で構成された今季のランウェイ。中でもコットンは、90%がオーガニック製だ。ステラ マッカートニー2020年春夏コレクションより。Photo: GoRunway.com

「スタイルや生活の質を犠牲にする必要はありません。今回のコレクションを見る人には、持続可能なだけのファッションショーだなんて思ってほしくない。重要なのは、あくまでも人々に望まれる魅力を備え、美しく、高級感があること──それでいて、持続可能な原料を使用しているというだけなのです」

各座席には、ブランドの生産方法を変革するためにステラがおこなってきたすべての取り組みを箇条書きにした目からうろこが落ちる説明文、さらには業界の標準的な慣例が多大な害をなす理由をも記載したプレスリリースが置かれた。冒頭には、2001年の設立以来、「皮革、毛皮、羽毛、動物由来の接着剤の使用を中止」とある。2016年からは、ヴァージンカシミアの使用を中止。「カシミアが環境に与える負荷はウールの100倍。カシミアのセーター1枚を作るのに必要なヤギは4頭。結果的に、草原の砂漠化を引き起こします」。そこでステラが代わりに採用したのが、再生カシミアである。同じ年、持続可能なビスコースの使用を開始。「毎年、繊維を生産するために1億5000万本の木々が伐採されています。その結果、森林破壊により30億トンもの二酸化炭素が大気中に排出されています。持続可能なビスコースを使用すれば、確実に森林破壊を避けられるのです」。2017年、再生ナイロンであるエコニール®を採用。「エコニールを使用することにより、これまでにナイロンの廃棄量を10トン以上削減しました」。ステラは、この説明文を2020年サマーコレクションに採用したすべての素材の一覧とともに「ブランド史上最も持続可能性の高いコレクションとなりました!」と締めくくっている。

ステラが実践するサステナブル生活。

アッパーとソールの接合に接着剤を使用していないループスニーカー。

数カ月後、6時までにミラー、ベイリー、ベケット、ライリーの待つ自宅に帰ろうと、ウエストロンドンに構えたエコ電力発電のオフィスで帰り支度をするステラに電話をかけ、近況を聞いた。出張中を除く毎朝、子どもたちを学校に送り届けてから自転車で出勤していると言う。また、週末になると、夫アラスデア・ウィリスと子どもたちとともに都会を逃れてグロスターシャーにある別荘へ行き、可能な限り母リンダが構築した暮らしを再現しているのだとか。リンダは、世界を席捲したビートルズ熱が落ち着いた後、夫ポールを説得して世間に煩わされることのない田舎に移り住み、肉を一切口にしないライフスタイルに切り替えるとともに子どもたち中心の生活を送った。

ステラが現代における驚異の地母神となった(自身の家族はもちろん、ファッション業界を牽引する存在という象徴的な意味もある)のも、リンダ・マッカートニーの娘なら自然な成り行きと言えるだろう。「母は、セレブとして初めて料理本を出版しました。もちろん、ベジタリアン仕様よ。また、スーパーで初のベジタリアン食品ブランドを展開しました。すごいでしょう?母の原動力は、思いやりの心──私たちは、母から思いやりを持つことを教わったのです。一体、なぜ人間は動物を殺す権利があると思うのかしら?」当時、マッカートニー家の信念は、社会の片隅に追いやられた少数派と見なされていた。しかし、現在ステラがしている多くのこと同様、ヴィーガン主義はメインストリームのムーブメントとなって形勢が逆転、今やステラは先頭へと押し出された。「2000年にデザイナーのキャリアを選択したとき、グッチ・グループ(当初、ステラを支援)に皮革は使用しないつもりだと告げました。当時は、前代未聞の出来事だったのよ」と彼女は振り返る。

「でも、これまで、うちのファラベラバッグやシューズが革製かどうかを気にした人なんている?いないでしょう?もちろん知っている分にはいいでしょうけど、そもそも皆、商品の見た目や着心地を気に入って購入するのよ」

幼少時代の経験こそがテイラリングの原点。

登場したデニムは100%がオーガニック、あるいはアップサイクル素材で作られている。ステラ マッカートニー2020年春夏コレクションより。Photo: GoRunway.com

現在のステラの生きざまはすべて、その幼少時代に端を発している──それは、ただビートルズの一員の娘という恵まれた身であることだけが理由ではない。デザイナーとしてのステラのインスピレーションを形成する要素のひとつに、父がサヴィル・ロウのスーツを愛用し、長年大切に手入れする様子を見てきたことが挙げられる。この経験こそが、ステラの服を長持ちさせるお手入れメソッド然り、彼女のテイラリングの原点になっている。「ドライクリーニングは服を傷めるから、ほどほどに。ブラシをかけて、部分的にクリーニングすること。父と、父がひいきにする昔ながらの仕立屋には、そう教わったわ!」。それから、カール・ラガーフェルドのデザインによるフェミニンなクロエ(CHLOÉ)のドレスが詰まった母のワードローブで遊んだ経験は、ステラが常時デザインするドレープのフォルムにいつまでも消えることのない影響を及ぼした。しかし、何よりもステラは、リンダの起業家精神に富んだ積極的な行動力を受け継いでいる。彼女は、そこに「動物虐待とは無縁のラグジュアリーブランドを立ち上げるビジネスチャンス」を見いだしたのだと言って、くすりと笑った。

ここで農業、そして土壌に話を戻そう。今日、世界の土壌は除草剤や化学肥料により多大な被害を被っていることから、人類が食糧を自給する力は早くも失われつつあると環境保護活動家たちが警鐘を鳴らす。2017年、ステラ・マッカートニーがエレン・マッカーサー財団とともにヴィクトリア・アンド・アルバート博物館でおこなった循環経済に関するプレゼンを聴講した私は、繊維産業とこの大地との驚くべき関連性について目を開かれる思いをした。

突如、明確かつ単純な図表を通じて示されたのは、明白であるにもかかわらず、服の購入時には考えもしないような事実である。私たちが身につけるものは、作物由来のものにしろ、作物を食べる動物から採取されたものにしろ、ポリエステルの原料となる化石燃料にしろ、すべて大地から生まれたものである。そして、それらはいずれ何らかの形でふたたび大地または海へと戻らねばならない。続いてエレン・マッカーサー財団は、厳しい事実を突きつけた。「毎秒、ごみ収集用トラック1台分相当の生地が焼却、あるいは埋め立てられています。一方、新しい服に再利用される素材は、全体の1%にも満たないのです」

しかし、状況に変化をもたらしうるひらめきが訪れた。ステラがショーのバックステージでも触れていた通り、大量の繊維廃棄物を再加工して再生、再利用する可能性──つまり不要となったものを汚染源ではなく資源と見なす発想の転換である。「5000億相当の商機を、みすみす逃しているも同然!」とステラは、ファッションジャーナリストの一団に語った。「すべての廃棄物は、技術の力で新しい素材へと再生できます。そこから生まれるかもしれない創造性を思うと、わくわくするわ」

ステラが描くファッションの未来。

マダガスカルの女性職人によって作られたラフィアバッグ。

電気自動車タクシーに飛び乗り、子どもたちの待つ自宅へと急ぐステラに聞いた──ファッションについて学びながら、ステラの考え方に賛同し、慕い、世界を変えたいと願う現在の学生たちに伝えたいメッセージとは?「技術と若者文化の融合に期待!今どきの若者はヴィンテージの服や寄付された古着を着て、レンタル品を使用しています──彼らがそのような行動を実践しているおかげで、埋め立て処分になる服の量が削減されるのよ。これから社会に出る人々には、技術業界に入り、新たな生地を開発するよう提言します。既存の方法よりも優れた新しい方法はたくさんあるのだから、誰かが発明しないとね」

それから、こう言って笑う。「私の若い頃も、そんな感じだった。自分の力で何とかしてやろうというパンクな精神。今の若い世代も、そのような精神を持っていると思います。皆、『自分から反逆しよう。自分が変化を起こすきっかけになるんだ』と決意しているのよ」。ステラの予見するところによれば、そのような創造的なエネルギーこそが、ファッション界の「未来そのもの」なのだ。

Profile
Stella McCartney
1995年、セントラルセントマーチンズ卒業。1997年、クロエのクリエイティブ・ディレクターに就任。2001年、自身のブランドを設立。2003年、初の香水発表。2004年、アディダスとのパートナーシップ締結。2012年、BFCによるデザイナーオブザイヤー、ブランドオブザイヤー受賞。2016年、初のメンズウェアを発表。ランジェリーやキッズラインも展開するほか、マドンナやグウィネス・パルトロウなど多くのアーティストたちの衣装も手がける。

Portrait Photo: Dougal ManArthur Item Photos: Shinsuke Kojima, Chihiro Kiyota Interview & Text: Sarah Mower Editor: Saori Masuda

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