<まる見えリポート>尾鷲海洋深層水が赤字、PR打開策を模索

【海洋深層水取水施設のアクアステーション=尾鷲市古江町で】

尾鷲市は、全国15カ所しかない、海洋深層水を取水する施設の一つを運営し、温泉施設や飲食店などに分水している。だが、平成18年の取水開始から現在まで事業収益は伸びず、赤字が続いている。市は「林業、漁業、海洋深層水のまち」として知ってもらおうと、海洋深層水を使ってもらうモニタリングを実施したり、企業回りをしてPRするなど打開策を模索している。

海洋深層水取水施設「アクアステーション」は同市古江町にある。新たな産業を生み出し、市の活性化につなげようと同16―17年に建設された。建設費は33億円で、市が約8億円を負担し、残りは県と国の補助金で賄った。

同市三木埼沖の、太陽光が届かない水深415㍍の海水を、長さ12・5㌔の取水管でくみ上げている。水温が年間を通して12―14度と安定していることや、ミネラルが豊富に含まれていることが特徴だ。

施設では、淡水や高ナトリウム水など5種類の海洋深層水を販売しており、活魚車や陸上養殖、飲食店などで使われている。活魚車を扱う会社からは「海洋深層水の温度が低く氷を使わずに済む」と好評という。

その一方で、事業収益は20年の420万円をピークに減少が続いている。市は影響を受けた一つに、大阪市の飲料メーカー「ライフドリンクカンパニー(LDC)」の尾鷲工場(尾鷲市名柄町)が31年3月、深層水の飲料水製造ラインの故障により深層水の利用を停止したことを挙げる。

市は、同社尾鷲工場で飲料水を製造してもらうために、古江町から名柄町まで海洋深層水を送水するパイプを通している。同工場が飲料水の製造を停止したことで、ピーク時には約200万円に上った同社の深層水の年間使用料が市に入らなくなったという。そればかりか、市内のスーパーなどで売られていたペットボトル入りの深層水の飲料水が見かけられなくなった。市は、飲料水の製造を再開するよう同社に要請し続けているが、加藤千速市長は令和元年11月28日の定例記者会見で「現在も進展はない」と述べた。

市商工観光課の担当者によると、「尾鷲工場では地元住民を含め50人ほど雇用してもらっている。市にとって経済効果は大きい」という。同時に、「一番良いのは、ラインを直してもらい、飲料水の製造を再開してもらうこと」と語る。

LDCの担当者は飲料水の製造ラインを修理するかについて取材に「社内で検討している。コストもかかるので現時点では答えられない」と話している。

市は、海洋深層水をPRしようと、利用客を増やす目的で9月から11月にかけて市内でモニタリングを実施。市内の飲食店と食品製造会社など5つの事業者と市民23人に海洋深層水を2カ月間にわたって使ってもらった。

モニタリングに参加した日本料理店「大福」(同市栄町)のおかみ山本佐奈美さんは「焼酎の水割りに使ったら、臭みや雑味がなくお客さまに好評だった。使い続けるか検討したいが、古江町まで深層水を取りに行くのが遠い。市街地のスーパーなどに置いてもらえたら」と話している。

市はまた、活魚車用の原水(大口分水)の1㌧当たりの値段を20円から40円に値上げする方針も決めた。市議会12月定例会で可決されれば、4月から値上げを実施する。

今夏には、海洋深層水のPR動画を作成。動画投稿サイト「ユーチューブ」で見ることができる。

担当者は「露出度を増やし、どんどん海洋深層水を売っていきたい」と話している。