電気炉で鉄を溶かす際に使われる黒鉛電極。環境規制を背景にした旺盛な中国需要などを背景に価格が跳ね上がり、中核事業に据える東海カーボン(5301)は2018年12月期の連結営業利益が前の期比で7倍に膨れ上がるなど、関連企業に恩恵をもたらしてきた。QUICKの個別銘柄のアクセスランキングでも連日で上位に顔を出すなど、市場参加者の関心も高い。ただ、ここにきて”爆食”中国での価格が下落するなど、ブームに陰りも見えてきた。鼻息の荒いアナリストはなお多いが、「今後は黒鉛電極の採算が悪化する」(野村証券)と、慎重な見方も出始めている。
見逃せない中国の動向
「2019年から世界の黒鉛電極の需給は悪化に転じる」。野村証券は27日付のリポートでそう指摘し、世界トップシェアの昭和電工(4004)の目標株価を引き下げた。中国景気の減速が国内の鉄鋼需要を減らし、電炉メーカーの生産性改善が他地域への輸出拡大につながる。結果、東南アジアや中東などで電炉の稼働率が下がるなどして黒鉛電極の需要が減少する。一方で、供給も増加の一途をたどる。中国の黒鉛電極メーカーの生産性改善による生産増が在庫をダブつかせる。新設工場の稼働も見込まれ、19年7月以降の黒鉛電極の価格や採算は下落に転じる、との見通しを示した。
黒鉛電極の先行きを見通すにあたり、中国の動向は見逃せない。国内では世界最大手の昭和電工のほか、東海カーボン、日本カーボン(5302)、SECカーボン(5304)が手がける。それでも世界シェア全体の2割強しかない。半数は中国メーカーが占める。中国製の黒鉛電極は、需給の緩みから価格が下がっている。「品質の高い日本製はプレミアムが加算されているが、中国製の価格が下がり価格差が大きく開くようだと、日本製も価格下落が懸念される」(メリルリンチ日本証券)。
一方で「需給が悪化する可能性は低い」と主張するのがゴールドマン・サックス証券だ。新設製造工場の本格稼働などによる供給の増加は認める一方、中国以外での電炉鋼生産の伸びも同程度見込まれるため、17~18年同様に需給バランスはタイトな状況が続くという。「中国の一部電炉メーカーの採算割れが黒鉛電極価格の下げにつながったが、先進国で電炉鋼の生産は好調を維持している」とも指摘し「黒鉛電極事業はなお過小評価されている」と見る。
ジェフリーズも強気な見方を維持する。黒鉛電極の原料であるニードルコークスの需要逼迫が理由だ。ニードルコークスの主要サプライヤーであるフィリップス66が能力増強をやめたことで、ニードルコークスのタイト化が黒鉛電極の需給の引き締まりにもつながる、とみる。SBI証券は、中国の粗悪な違法鋼材「地条鋼」の生産停止やニードルコークスの需給タイト化で20年まで黒鉛電極の需給が逼迫した状況は続く、としている。
【黒鉛電極に対する主な見方】
◎ゴールドマン・サックス証券
黒鉛電極は19年も17~18年と同様、タイトな需給バランスが続くとみている。先進国では電炉鋼の生産は好調を維持しており、主要メーカーの契約価格も19年上期にかけて一段と上昇している。グラフテック・インターナショナル(@EAF/U)の増産や昭和電工の米国工場の稼働上昇による供給増は、中国以外の電炉鋼生産の伸びでカバーできると見ており、需給が軟化する可能性は低い。
◎野村証券
予想以上に黒鉛電極の需給が軟化している。中国の鉄鋼需要の減退や輸出増などで、東南アジアや中東といった地域で電炉の稼働率がやや低下している。需給が緩み、契約価格にも影響が出始めているもよう。19年上期は米国、欧州、日本などでの採算はまだ高いが、17~18年にかけて新設が決定された設備での生産も19年後半から始まるため、19年7月以降の黒鉛電極の価格や採算は下落に転じるだろう。
◎ジェフリーズ
黒鉛電極の原料であるニードルコークスは、フィリップス66による能力増強計画の取りやめや電気自動車(EV)向けリチウムイオンバッテリーの需要拡大などで、価格が上昇する可能性が高い。ニードルコークスの供給が増えないならば、黒鉛電極の逼迫はしばらく続くだろう。中国政府の環境政策が方向転換しない限り、需要の長期成長率は1ケタ前半を維持する。
【黒鉛電極の主な関連銘柄】
昭和電工(4004)
東海カーボン(5301)
日本カーボン(5302)
SECカーボン(5304)
グラフテックインターナショナル(米)
グラファイトインディア(インド)
HEG(インド)
(松下隆介)
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