株式・投資

【経済快説】岸田首相は株式がお嫌い? 「反資本主義」とでも呼ぶべき方向性…ネガティブな情報発信繰り返し

岸田文雄首相は株式市場が嫌いなのだろうか。過去の多くの内閣と異なり、首相就任後これまでの間に政権支持率が上昇傾向にある岸田政権だが、株価の動きがいささかさえない。

率直に言って、現在日本の株式市場は新興国市場のような「ローカル市場」に成り下がったので、株価形成は海外の投資家に左右される。米国を中心とする海外の株式市場との連動性が大きい。とはいえ、日本独自の要因が日本の株価に全く影響しないわけではない。

その日本固有の要因として株価に影響を与えているのが岸田首相だ。深い理由は分からないが、これまで岸田氏は株式市場から見てネガティブな情報発信を何度も繰り返してきた。今後についても懸念されている。

自民党総裁選の時点で口にした金融所得課税の見直し(税率引き上げ)が株式市場に嫌われた。岸田氏の目的は、高所得者の株式による所得への課税強化にあったらしい。しかし、金融所得課税が強化されると、オーナー企業の株主のような少数の富裕者だけではなく、広く投資家一般の投資収益の価値が下がる。

リスク投資に対する収益を罰するような変化なので「新しい資本主義」よりも「反資本主義」とでも呼ぶべき方向性だ。政権発足当初に株価が下がり「岸田ショック」という言葉が生まれた。その後も、岸田首相からは株価に対してネガティブな発言が出てくる。「自社株買いに対する何らかの規制の検討」「四半期の業績開示の見直し」「株主資本主義の見直し」など、株式投資家が嫌がりそうな発言が散発的に飛び出している。

米国の会社のような自社株買いによる株価引き上げはあざといが、自社株買いの多寡は企業と株主が決めるべきものだ。

また、業績開示の頻度を減らして経営効率が改善する理由はない。

加えて、「資本主義」が何であるのかを理解していない岸田氏に株主資本主義を見直すと言われると、株主の利益が敵視されているのではないかと投資家は不安になる。

金融所得課税の強化は、参院選で与党が勝利した場合に(たぶん負けないと思うが)再び持ち出されるだろうと多くの投資家が予想している。

そして、実はそれ以上に投資家にとって心配なのは、岸田首相がアベノミクスの中核である金融緩和政策の見直しに着手する可能性だ。率直に言って岸田氏は安倍晋三元首相が嫌いだろう。海外から波及したインフレ率の高まりを契機として、日銀の金融政策を変更しようとする可能性がある。そして、岸田氏が次の日銀正副総裁を指名する可能性がある。日銀人事の影響力は大きい。

岸田氏はまだ株式市場を嫌っていないかもしれないが、株式市場は既に岸田氏を嫌っている。 (経済評論家・山崎元)

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