リコール台数が世界で745万超に──。デンソーの欠陥燃料ポンプの問題がさらに深刻な事態に陥っている。2020年10月28日、トヨタ自動車は「国内で21万363台、海外で約245万台」(同社広報および国土交通省)のリコールを国交省に届け出た。このリコールの原因もデンソー製欠陥燃料ポンプにあることが国交省やトヨタ自動車の関係者などへの取材で明らかになった。これにより、既に判明しているトヨタ車(過去分)とSUBARU車、ホンダ車を合わせた479万台超に、今回のトヨタ車の新規分である約266万台が上乗せされてリコール規模が拡大。しかも、事態は収束するどころか、さらに悪化する方向に進んでいる。
①「デンソー品質」に大きな亀裂、巨人はこれでつまずいた 340万台超のメガリコール
②品質管理の手抜きが露呈、デンソー欠陥燃料ポンプ 340万台超のメガリコール
③デンソー欠陥問題がホンダに波及、判断遅れ計479万台リコールへ
④デンソーリコール745万台に拡大、追加賠償と転注が不可避か
⑤新規トヨタ車リコールで460億円の追加賠償、デンソー品質問題
「異常な事態だ」
トヨタ車の新規リコールの原因となったのは、欠陥低圧燃料ポンプ。樹脂製インペラ(羽根車)が変形してポンプケースと接触し、作動不良を起こしてエンジンを停止させる恐れがある。日経クロステックが取材した品質管理や樹脂成形の専門家の見解によると、欠陥を生んだ直接の原因は、インペラに対する不適切な成形条件にあるとみられる。インペラの材料は、ガラス繊維やタルク(ケイ酸マグネシウム)を含有して強化したポリフェニレンスルフィド(PPS)とみられ、成形時の金型の温度が低すぎて結晶化度が低くなった。結果、「樹脂(PPS)の密度が低下」(トヨタ自動車)し、PPSの内部に生じた隙間にガソリン(燃料)が侵入してインペラが膨潤した。これがデンソー製燃料ポンプが品質不良に至ったメカニズムとされる。
新たにリコール対象になったクルマは、国内だけで2017年7月5日から2019年12月6日の期間に造られた「ノア」や「ヴォクシー」などのミニバンから、「クラウン」や「カムリ」などのセダン、高級車「レクサス」シリーズなどまで39車種と多岐にわたる。事故を起こした事例はないが、市場から109件の品質クレームが報告されている。
あるトヨタ自動車の関係者は、今回のリコールについて「異常な事態だ」と指摘する。というのも、今回が「2度目のリコール」だからである。トヨタ自動車は同じ欠陥燃料ポンプを原因とするリコールを2020年3月4日に国交省に届け出ている。通常なら、この時に燃料ポンプの内容を精査してリコール対象のクルマを全て洗い出せたはずだ。ところが、トヨタ自動車は今回、追加でリコール対象車を同省に報告した。これについて同社は、「本件は(一度)リコールを届け出たものだが、検証を進めた結果、対象拡大の必要性が生じたため、新たに届け出た」と説明する。ではトヨタの検証に不備があって漏れが生じたのだろうか。
どうやらそうではないようだ。「事故につながるような本当にまずい品質不具合であれば、今回対象となった車種は前回のリコールの届け出の中に含まれていたはずだ。これはトヨタ自動車が検証漏れをしたのではなく、品質のばらつきを調べた上で、より安全・安心側に振ったリコールと見るべきだろう。要は、『疑わしきは罰する』という判断だ」(同関係者)。
背景には、最近世間を騒がせている品質問題がある。件(くだん)のデンソー製欠陥燃料ポンプ問題に加えて、2020年9月にはジョイソン・セイフティ・システムズ・ジャパン(JSSJ、旧タカタ)製シートベルトで品質不正が発覚したという報告を、トヨタ自動車はJSSJと国交省から受けた。法令が定めた試験方法と安全基準(強度)をJSSJが満たしていない事実が確認されれば、大規模リコールが避けられない事態となっている。こうした大きな品質問題の発生により、「今、自動車の『安全・安心』に向けられた世間の目は以前に増して厳しくなっている。こうした中で、もしも人命に関わるような事故が起きたらトヨタ車の信頼は地に落ちかねない。それを何としても避け、顧客に安全や安心を感じてもらうためのリコール判断だろう」(同関係者)。