三菱重工業と量子科学技術研究開発機構は、国際熱核融合実験炉(ITER=イーター)向けの中核部品を完成させた。ITERは日米欧など世界7極が参加する国際プロジェクトで、中核部品が完成したのは世界で初めて。三菱重工は開発中の国産ジェット旅客機「三菱スペースジェット」や大型客船「アイーダ・プリマ」などで製造トラブルが相次いでおり、ものづくり力を懸念する声も出ていた。国際プロジェクトで一定の成果を見せたことで、信頼回復に一歩近づいた。

 「これまで培った技術力を日本のワンチームとして発揮した結果、高精度の組み立てを完成できた。引き続きこの夢のプロジェクトに貢献していきたい」。1月30日、兵庫県明石市の神戸造船所二見工場で開かれた式典で、三菱重工の泉澤清次社長はこう力強く語った。世界初の完成ということで、式典にはITER機構のベルナール・ビゴ機構長も駆け付けた。

 核融合とは、1億℃以上の高温で水素原子の電子と原子核をバラバラにした「プラズマ」を作り、飛び回る原子核同士を衝突させること。その際に生じたエネルギーを発電に使う。原子力発電よりも高いエネルギー効率と、核廃棄物を出さない安全性を両立できるとされている。

 今回、三菱重工が完成させたのは「トロイダル磁場コイル」と呼ばれ、強力な磁場でプラズマを閉じ込め核融合の効率を高める中核部品。1基あたりの高さは16.5メートル、幅9メートル、重さ300トンの巨大な製造物だ。

 2025年の完成を目指しているITERは、トロイダル磁場コイルを18基組み合わせる。日本が全体で9基を担当し、そのうち三菱重工は予備部品を含めて計5基の製造を受注している。

 三菱重工が中核部品の受注したのは13年10月で、実は欧州勢の方が受注は早かった。三菱重工原子力事業部核融合推進室の井上雅彦室長は「日本は東日本大震災の影響で発注が1年遅れた」と、「世界初」が欧州勢に取られる可能性があったと打ち明ける。

 しかし、三菱重工は原発関連で培った技術力を生かし、欧州勢よりも早く製造を完了。順調な開発状況などが評価され、特殊な予備機の製造も手掛けることが決まっている。

 三菱重工の関係者によると、国際プロジェクトで技術力の高さを証明できたことについて、泉澤社長の喜びは大きいという。

 背景にあるのは大型客船や国産ジェット旅客機などで相次いだトラブルだろう。政府が開発を検討する次期戦闘機では、方針が確定すれば三菱重工がシステム全体の開発を請け負う予定だが、度重なる問題を受けて、政府関係者からは「三菱重工に任せて大丈夫なのか」という声が出ていた。国家プロジェクトとともに成長してきた三菱重工にとっては危機的とも言える状況だけに、ITER中核部品の世界初の完成は大きな意味を持つ。

 さらに三菱重工にとっては、原発の新設案件がなく仕事不足に悩む神戸造船所の仕事の確保、また原発の開発・製造に関わる技術を伝承する機会としての貢献度も大きい。今回手掛けた中核部品の製造はあと2年ほどで終わる見込みだが、「ITERの別部品の受注が期待できる」(井上氏)。

 かつて原発事業は三菱重工の将来を支える事業として期待されたが、東日本大震災の発生や世界的な原発離れで先行きが危ぶまれている。ITERでの実績が、三菱重工の失った信頼を取り戻すきっかけになるかもしれない。

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