念願の海外展開に尽力し、やり遂げる 小野薬品滝野十一社長に聞く

 小野薬品は、2028年米国を契機とするオプジーボの特許切れを見据えて、欧米での新製品自販による成長戦略を打ち出している。そこで、真のグルーバルファーマとなるための課題や展望、米国で第一号製品となる「ベレキシブル(中枢神経系原発リンパ腫治療薬)」の有用性、株主還元などについて4月1日に社長に就任した滝野十一氏に聞いた。
 小野薬品の売上収益(2024年3月期業績予想5000億円)の約半分を占めるオプジーボは、2026年に海外パートナーからのロイヤリティが切れ初め、米国では2028年、欧州では2030年に特許切れし、それに応じた海外のロイヤリティ収入も段階的に減少していく。同社の業績に最も影響を与える日本での特許切れは2031年で、2032年辺りから売上高が減少し、数年で半減するものと予測されている。

ポストオプジーボ
欧米中心に複数品目を自社開発・販売

 こうした中、滝野社長は「オプジーボクリフを乗り越えて持続的に成長するには、欧米での新製品自社開発・販売が不可欠になる。頑張ってこれをやり遂げたい」と意気込む。オプジーボの販売は、日本、韓国、台湾については小野薬品が自力で行い、欧米などその他の国については提携するブリストル マイヤーズ スクイブ(BMS)からロイヤリティ収入を得るというものだ。
 このようなライセンスビジネスから脱却し、「欧米を中心としてグローバルに複数品目の自販を展開し、オプジーボのような超大型品でなくてもしっかりと自社の成長に繋げていく」のがポストオプジーボに向けた小野薬品の戦略だ。
 滝野氏は、「‟自分たちの薬をたくさんの海外の人に届けたい”というのが従来からの我々の強い思いで、社員の夢とも合致している。オプジーボのベネフィットがその機会を作ってくれた」と指摘し、「それをレバレッジにして次の成長カーブに繋げていきたい」と強調する。念願の海外展開は、相良暁会長、滝野社長、辻󠄀中聡浩副社長の代表取締役3人による「3気筒エンジンでしっかりと実現していく」
 欧米自販による成長戦略の第一弾は、まず、米国第1号製品として2026年上市を見込んでいるベレキシブルだ。ブルトン型チロシンキナーゼ(BTK)阻害剤の「ベレキシブル」は、2020年5月20日、再発又は難治性の中枢神経系原発リンパ腫「PCNSL」を効能・効果に国内で発売された。その後、同年8月にB細胞リンパ腫(WMLPL)の適応症追加が承認された。BTK阻害剤は、医療現場に大きなベネフィットを与える薬剤として注目されており、現在のベレキシブルの売上高は約100億円に上る。
 ベレキシブルにおいて小野薬品が国内外での展開で特に注力しようとしているのが、脳腫瘍の一種に分類されている「PCNSL」である。
 BTK阻害剤の中でPCNSLを対象に承認を取得している薬剤はなく、小野薬品では「選択性が高く安全性に優れ、脳移行性も高いベレキシブルの特性を活かす」戦略を推し進めていく。
 国内の年間推計罹患者数はPCNSLが1500人、WMLPLが600人であるが、日本で100億円クラスの薬剤でも日本の10倍のグローバルマーケットシェア(50%)を誇る米国ではその規模に応じた拡大が期待される。
 小野薬品では、ベレキシブルの上市に備えて米国マサチューセッツ州ケンブリッジに現地法人の「ONOファーマUSA」を設立している。現在、従業員は研究開発・営業を含めて120人程度であるが、上市段階では200人弱を見込んでいる。「今は、販売もキーになる人員だけだが、上市が近づけば、実際のマーケットフィールドで活動するセールスレップの準備も進める。米国の従業員数は、二の矢、三の矢、四の矢となる医薬品候補の領域によるオーバーラップやシナジーを鑑みながらベストな体制を組んでいく」

ベレキシブルに続く複数の新薬パイプラインの整備が課題

 一方、グローバルファーマになるための課題として滝野氏は、「ベレキシブルに続く新薬候補のパイプラインをしっかりと整えておかねばならない」と指摘する。
 新薬候補のパイプライン充実では、「自社の創薬研究では一日でも早く1個でも多く上市にもっていくのは勿論、M&Aも含めて臨床ステージの化合物を適宜ライセンスインする戦略も視野に入れている」
 新薬候補は、「医療ニーズが大きく、ニッチェであってもアンメットメディカルニーズの高いもの」をターゲットとし、具体的な領域として「オプジーボの10年の経験を有する‟がん”、イムノオンコロジーを活用した‟免疫”、‟中枢疾患”」などを挙げる。
 これらのどのコンポーネントを進めるにしても多大な費用を要するが、研究開発費の充足にも抜かりはない。小野薬品では、2016年にスタートし2031年をゴールとする長期ビジョン(5年間の中期経営計画3セット)において、研究開発費2000億円の達成を目指している。
 2023年度は丁度折り返し地点になるが、研究開発費1090億円の実績を見込んでおり、「2000億円に向けてのピッチは、きっちりと刻んでいる」

アカデミア、バイオベンチャー等とのオープンイノベーションも充実

 これまで小野薬品が得意としてきた大学や研究者のアカデミア、バイオベンチャー等とのオープンイノベーションにも余念がない。最近では、本年3月に米国ハーバード大学と、新規創薬標的の検証を目指した5年間の包括的研究提携契約、英国オックスフォード大学と革新的な医薬品の創出に向けた創薬シーズの検証と化合物の取得を目的とする包括的な創薬提携契約を締結した。
 「ハーバード大学は標的の検証を主としており、オックスフォード大学は標的ターゲットの探求に加えて、少し創製も行う」 両大学とも研究領域は、「オンコロジー」、「イムノロジー、がん免疫」、「神経系」、「その他」、で、オックスフォード大学では1つ目のプロジェクトである「中枢」がスタートしている。
 一方、2015年には、医薬品の創製に優れているバンダービルト大学とアンメットメディカルニーズを満たす革新的な治療薬を目指した創薬提携契約を締結。
 2021年には、カリフォルニア大学創薬コンソーシアム(米国、カリフォルニア州、UC DDC)に参画。UC DDC加盟7校の早期段階の研究テーマにアプローチし、さらなる研究開発の促進を図っている。
 2019年3月には、キャンサー・リサーチUK(CRUK)およびライフアークとがん免疫領域での戦略的創薬提携契約を締結するなど、「多くのアカデミア、バイオベンチャー等とのライセンス活動を展開している」

株主還元では機動的な自社株買い実施

 気になる株主還元については、従来からの基本方針である「できるだけ長期的に安定的な配当の提供」を継続する。
 自社株買いにも言及し、「昨年度も大きく実施した」と述べ、「株式需給の引き締め、資本効率性、総体的なキャッシュポジションの状況などを総体的に判断しながら、機動的にやっていく。もっともっと明るい材料を提供できるように頑張りたい」と訴えかけた。
 最後に滝野氏は、「小野薬品は、道修町に育てて貰った企業である。関西から元気な会社がグローバルに進出する機運が高まるロールモデルになりたい」と抱負を述べた。
    

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