お役立ちコラム

蛾の眼を模した反射防止の新技術・モスアイ構造!
その原理・研究開発の現状について徹底解説

蛾の眼の構造を活用した「モスアイ構造」。
モスアイ構造は、その透明性と反射率の低さで多くの製品で活用されています。

この記事では、モスアイ構造について解説するとともに、その原理・活用事例、研究開発について説明します。
モスアイ構造について理解する一助になれば幸いです。

モスアイ構造とは

「モスアイ」を英語で書くと、「Moth-eye」。
「Moth」は「蛾」という意味です。
直訳すると「蛾の眼」になります。

生物で習ったことがある人も多いかもしれませんが、蛾は夜行性の昆虫です。
そのため、暗い夜でも自由に飛び回ることができます。
また、進化の過程で特殊な眼の構造を獲得し、天敵から身を守りつつ蜜・樹液を出す植物を見つけ出せるようになりました。

その蛾の眼には、規則正しく並んだナノレベルの突起があります。
それを活用した構造を「モスアイ構造」といいます。
蛾は、複眼の表面にある、一定間隔で多数並んだナノレベルの微細な突起により、ほんの少しの光でも反射を抑えて取り込めます。

原理と利点

モスアイ構造の原理は、一定間隔で多数並んだ突起にあります。
この突起の並びは、可視光の波長よりも小さい大きさで、かつ規則的です。
光の反射が起こる大きな理由は、空気と光を透過する物質における屈折率の違いにあります。
光の反射が大きくなると、その反射面にいらないものが映り込み、対象物が見えにくくなります。

しかし、蛾の眼の突起は紡錘形です。
カーブを描いた形状によって様々な角度からの入射光について、屈折率を連続的に変化しつつ取り入れることができ、ほとんど反射しないという利点があります。
実際、モスアイタイプは可視光の全領域で反射防止を実現できます。
スパッタリング技術で作られた反射防止膜と比べると、その反射率はほとんどの波長域でモスアイタイプが有利です。

2つ目の利点は、曇りにくいことです。
眼鏡が曇った経験がある人も多いと思います。
曇る理由は、息に含まれる水蒸気が水滴になり結露するためです。
親水性の高い樹脂で形成されたモスアイ構造のフィルムは、すぐに表面に水滴が広がるので、曇りにくくなっています。

モスアイ構造フィルムの表面拡大写真(電子顕微鏡5万倍写真)

モスアイ構造の研究開発の流れと現状

モスアイ構造で注目されているのが、反射低減技術です。
ここでは、これまでの反射低減技術の流れと、モスアイ構造技術研究の現状について説明していきます。

これまでの反射低減技術の現状

モスアイ構造の研究開発で期待されているのが、反射低減技術です。
これまでは誘導体多層膜が反射低減技術を支えてきました。
しかし、光を利用した新しい機器の増加や光学系部品の形状・大きさが多様化し、これまでの誘電体多層膜では足りないケースも増えてきました。
実際、現在多くの人が使っているデジタルカメラでは撮像素子にCCD・CMOSが使われています。

しかし、フィルムカメラと比べると光反射が起きやすく、その結果としてフレアやゴーストといった減少が起こりがちです。
また、LCDなどの平面液晶ディスプレイでも、ディスプレイへの光反射による映り込みが課題となっています。
これまではシリカ粒子や凹凸構造層を設け、アンチグレア処理で対応していました。
しかし、高解像度化が進んできたことで、透過してきた光が散乱するなど、課題が表面化しました。

モスアイ構造研究の流れ

現在、反射低減技術で注目されているのが「モスアイ構造」です。
従来は、モスアイ構造を理解し応用するためには、電磁場解析への深い理解が求められてきました。
実際、1980年代までは「モスアイ構造」という言葉自体知られていませんでした。
しかし、1987年に日本でモスアイ構造を模した反射防止膜が試作されたのを機に、1990年代より平面基板上にモスアイ構造を取り入れるための試作研究が始まりました。

下記の記事では、反射防止膜について解説していますので、あわせてご覧ください。

モスアイ構造研究の現状

電磁場解析への理解があまりなくてもモスアイ構造の設計ができるようになると、「モスアイ構造を早く作成する方法」および「レンズ表面へモスアイ構造を作る方法」が研究の中心にシフトしていきました。
さらに研究が進み、1990年代終わりから2000年代に入ってからの研究テーマは、モスアイ構造を樹脂形成にどのようにして複製するかに移っていきます。
実際、2000年代には、反射防止シートや樹脂レンズ、赤外線用レンズの施策に成功しているのです。
今後は、熱伝導性の高いダイヤモンド基板の表面に矩形の微細構造を作成する研究も進んでいくでしょう。

成型法によるモスアイ構造の作製技術

1990年代から行われてきた金型作製技術の進化により、モスアイ構造も簡単に転写できるようになっていきました。
この技術を活用して製造されているモスアイ構造の形成品が、反射防止フィルムです。
モスアイ構造はナノオーダーの針状構造なので、反射防止効果があります。
実際、今までもモスアイ構造を活用した反射防止フィルムもあり、大型ディスプレイなどに使用されていたのは確かです。
ただ、強度が弱く、指紋がつきやすいというデメリットもありました。

モスアイ構造は、グラッシーカーボン(GC)基板に酸素イオンを照射することで形成することが可能です。
しかし、ナノオーダーの針状形状ということもあり、触ると壊れる程度の強度しかありませんでした。
しかし、2017年に特殊なUV硬化性樹脂にナノインプリント技術を使って転写して、強度の問題は解決しました。

あわせて、防汚性もあるので指紋がついても拭き取りが可能です。
もともと、モスアイ構造は視認性の高さに定評がありましたが、さらに高い視認性を持っています。
反射率もほぼ0%に近いところまで抑えられています。

電波望遠鏡のフィルタ

その他、電波望遠鏡にもモスアイ構造の技術が活用されています。
電波望遠鏡では、アルミナが反射防止機能を有する赤外線吸収フィルタとして注目されてきました。
しかし、ミリ波屈折率が高く、反射率の高さが問題になっています。
そこで、ピラミッド構造が並ぶモスアイ構造が注目されているのです。

モスアイ技術を活用した樹脂フィルム

また、最近進んでいる研究では、モスアイ構造を活かしたウイルス不活化効果にも注目が集まっています。
これは、特殊な樹脂材料の表面に小さな突起があるモスアイ構造があるフィルムを使い、加工していない素材と感染価(活性なウイルス量)を比較した実験です。

実験結果は、10分間で99.675%、30分間で99.959%の感染価の減少が確認できたという結果でした。
ちなみに、フィルムの表面をアルコールで100回清掃した後でも30分後の感染価の減少率が99.959%を維持しているので、これだけでも耐久性があるのがわかります。

まだ、そのあたりのメカニズムが完全にわかっているわけではありませんが、「樹脂材料とモスアイ構造の相乗効果」、つまり、樹脂材料のウイルス不活性化の効果を、表面積の大きいモスアイ構造が加速したと考えられています。

モスアイ構造はこれから期待できる薄膜技術

ここでは、モスアイ構造についてその原理とこれまでに行われてきた研究、今後期待される技術開発などについてご紹介しました。
モスアイ構造は、ナノインプリント技術の進化によって量産化ができるようになりました。
まだ、強度が弱い、指紋がつきやすいなどの問題もありますが、今後の技術革新が期待される分野です。

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