5年後には世界が変わってるかも。NTTが"宇宙インフラ開発"を本気で進める理由とは?

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  • author 照沼健太
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5年後には世界が変わってるかも。NTTが"宇宙インフラ開発"を本気で進める理由とは?
Image: Shutterstock.com

いよいよネットの壁がなくなるぞ。

アメリカを筆頭に、世界各国の政府や企業が宇宙開発に取り組む現代。日本でも民間企業による宇宙開発への取り組みがニュースとなることも珍しくありません。

そんな中、あのNTTが宇宙開発に進出しており、まるでSFかのようなネーミングを持つ「宇宙統合コンピューティング・ネットワーク」という構想を立てているという情報が飛び込んできました。

NTTが宇宙開発? そして宇宙統合コンピューティング・ネットワークって? 今回はあまりにも気になりすぎたので、NTTグループ社員の方々にインタビューを行なってきました。

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Photo: 照沼健太

左より

・堀 茂弘さん:株式会社Space Compass(以下、Space Compass

・外園 悠貴さん:株式会社NTTドコモ(以下、ドコモ

・阿部 順一さん:日本電信電話株式会社(以下、NTT

・糸川 喜代彦さん:日本電信電話株式会社(以下、NTT

・藤野 洋輔さん:日本電信電話株式会社(以下、NTT

宇宙はすでに、人類の新たな経済活動の場となっている

──世界中で宇宙開発が行われていますが、人類はなぜ宇宙に進出しようとしているのでしょうか?

Space Compass:「宇宙」とひと言で言っても、現在は経済活動の舞台である「近傍宇宙(きんぼううちゅう)」と、科学的な新しい発見を求めて探索する「深宇宙(しんうちゅう)」に分かれています。

近傍宇宙とは地球の近くから静止軌道くらいまでで、衛星を飛ばして宇宙を利活用するためのエリアとなっています。深宇宙はその外側で、月や火星などもここに含まれています。

もともとは近傍宇宙も国家プロジェクトレベルでしか行くことはできませんでしたが、1970-80年代の放送通信の民間宇宙活動に加え、2000年代中盤から新たな民間企業による活動も始まりました。

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Image: © ESA-CNES-ARIANESPACE Optique vidéo du CSG
国内発の商用通信衛星JCSAT-1打上げ

Space Compass:最初は知的好奇心や科学技術の発展などが先行して宇宙に向かっていったのだと思いますが、その領域が近年になってビジネスの世界にも繋がっていったというイメージですね。

人類の歴史って、"壁にぶつかったら新しい道を開拓する"ことの連続だと思うんです。たとえば大航海時代のきっかけは、既存の交易ルートが使えなくなったポルトガルが新たな航路を開拓しようとしたことにありましたよね。それに近いことが宇宙を舞台として始まっているんだと思います。

──では、NTTが宇宙進出を始めていることにも、何かしらの課題意識が影響しているのでしょうか?

Space Compass:「人類の活動が行なわれているところに必要なインフラを提供する」という目的がNTTグループのDNAには組み込まれているんです。

というのも、NTTといえばドメスティックな日本企業というイメージが強いと思いますが、12〜13兆円ほどあるグループ売り上げの内、2兆円ほどは実は世界中のソリューション事業やグローバルネットワークとデータセンターによるものです。そして約30万人いる社員のうち4割以上は海外の方なんですよ。

──そんなに⁉︎

Space Compass:そうなんです。世界でも5本の指に入るインフラプロバイダーなんですよ。だから私たちは、宇宙に人類の経済活動が広がっていくのであれば、そこにも必要なインフラを提供していきたいと考えています。

ドコモ:また、NTTドコモとしては宇宙進出によってネットワーク問題の解決ができるのではないかと考えていて、とくにエリアカバー率の面で着目しています。日本では皆さん当たり前のようにスマートフォンなどを使って日常的に通信できていると思いますが、それでも通信が担保されている面積は、日本の国土の50~60%程度くらいなんですよ。

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Image: Shutterstock.com

──えっ!? もっとカバーできていると思っていました。

ドコモ:たとえば、山奥とかそういったところでは通信できないですし、海上とか空の上も満足いく高速通信ができません。今までもそういう課題はあったのですが、さまざまなICT事業が盛んになる中でデータ通信の需要が高まっているため、これまで以上にエリア拡大の重要性が増しているんです。

しかし、山奥に基地局を建てるのは大変だし、海上にはそもそも建てることができません。そこで「宇宙空間や、私たちが実用化を進めている、高度約20kmの上空からモバイルネットワークを届ける無人飛行機HAPSを使えば、エリアカバー率を解決できるのではないか?」という超カバレッジ拡張という構想を実用化に向けて動いています。

※:民間航空機は高度約10Kmを飛行

超カバレッジ拡張とは?

基地局が移動局端末との通信を⾏うことができるエリアを、現在の移動通信システムがカバーしていない空・海・宇宙などを含むあらゆる場所へ拡張すること。


HAPSとは?

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Image: ©️Airbus

携帯電話などの基地局を載せて空を飛ぶ無人航空機のことで、電波が届かなかったり基地局を建てられない場所に空からモバイルネットワークを提供することができる。

Space Compass:また、人口カバーから国土カバーへの移行は、顕在化している課題を解決するものでもあります。 たとえば山での遭難や海難事故が起きた際、既存のモバイル事業者によってはインターネットが届かないという課題が現在浮き彫りになっています。そこで人口カバーから国土カバーへとエリアを拡大することで、被害を防げる可能性を高めていきたいです。

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Image: Shutterstock.com

また、今後は労働人口の減少といったような社会課題により、山間部などの僻地や離島などでドローン配送が進むと言われていますが、そうした地域には満足なモバイル通信インフラがないというギャップがあります。国土カバーの発想と実現によって、そうした課題を解決し、さまざまな活用方法が生み出せると思っています。

NTT:そして将来的に5Gから6Gに移行した際、5Gよりもさらに高周波数帯を使用するため、遮蔽物に弱く、地上ではビルなどに遮られて電波が届きにくくなることが予想されています。この課題に対してはいろいろなアプローチがあるのですが、宇宙やHAPSから電波を届けることもそのうち一つの方法だと考えています。

宇宙を統合するネットワークと、それを支える「光技術」が変えるもの

──「宇宙統合コンピューティング・ネットワーク」について、どのような構想かを教えてください。

Space Compass:簡単に言えば、光技術を用いて「地上の災害の影響を受けない、宇宙で独立した自立可能な通信インフラ」を作る構想です。

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Image: ©Space Compass

この構想の中には「宇宙データセンタ」「宇宙RAN」「宇宙センシング」という3つの事業領域があり、これらに必要な要素技術の研究開発と、実用化に向けた検討を推進しています。

宇宙データセンタとは?

衛星同士がネットワークでつながり、宇宙で発生したデータを地上ではなく宇宙で高速処理するエッジコンピューティングのような仕組み。観測衛星が撮像したデータを、地上に素早く送れるようになり、宇宙データの利活用のリアルタイム性、ユーザー利便性の飛躍的な向上に貢献する。


宇宙RANとは?

6G時代に向け、基地局(RAN)を、宇宙空間を含めた地上以外にも設置することで、セルラーカバレッジを拡大する構想。宇宙空間には衛星を、地球の上空にはHAPSを配置し、上空に構築する多層ネットワークにより、山間部や海上など今までカバーできていなかった場所での通信を可能にする。


宇宙センシングとは?

屋外にあるさまざまな省電力センサ端末のデータを、衛星により地球上のあらゆるエリアから収集する仕組み。動植物の生育確認、陸上動物や海洋生物の分布、気象状況など、高精度な可視化や予測精度の向上に貢献する。

──なるほど、人工衛星でネックワークを作り上げれば、地震や台風に影響されない通信環境ができる、というわけですね。「光技術」とはどういったもので、何に使われるんですか?

Space Compass:現在の通信技術はエレクトロニクス(電子)ベースなのですが、その次世代となる技術です。フォトニクス(光)ベースになることで、超低消費電力、超光速通信、高セキュアを実現できると私たちは考えていて、その光技術を使って豊かな社会を作ろうという「IOWN(アイオン)構想」を私たちは提唱し、2030年の普及を目指しています。

フォトニクス(光)技術とは?

フォトニック結晶と呼ばれる構造を使うことで、光を小さな領域に閉じ込め、光と物質の相互作用を高める技術。チップ内の配線部分や、光スイッチ、レーザ、光メモリ、光RAMといったさまざまなデバイスに導入する事で、低消費電力や光速通信を可能にする。


IOWN(アイオン)構想とは?

Innovative Optical and Wireless Networkの略。光を中心とした革新的技術を活用し、これまでのインフラの限界を超えた高速大容量通信ならびに膨大な計算リソース等を提供可能な、端末を含むネットワーク・情報処理基盤の構想。2024年の仕様確定、2030年の実現をめざして、研究開発を始めている。

NTT:まず私たちが現在使っている電波は国からの免許制であり、有限の資源なんです。

また、通信速度を上げようと思った時には帯域幅を広げる必要があり、必然的に高い周波数を使わなくてはなりません。さらに高い周波数の電波は、距離に応じた電波の減衰が大きく、かつ、建物等の裏側に回り込みにくくなるため、基地局をたくさん作らなければならず、コスト面が課題となっているんです。

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Image: Shutterstock.com

こうしたことから、技術的にもビジネス的にもどこかで限界が来ることが予想されており、そのブレイクスルーとして光技術が期待されています。

Space Compass:衛星においては消費電力性能と宇宙線耐性が大きな制約となっているので、IOWN構想で開発したデバイスが衛星に搭載されれば消費電力が劇的に下がり、宇宙線によって発生するデータエラー対策(宇宙線に含まれる放射線が半導体にエラーを引き起こす)にも有効ではないかとも期待されています。

──この「宇宙統合コンピューティング・ネットワーク」において、最初に提供が開始されるのはどのサービスになる予定ですか?

Space Compass:2024年度に「宇宙データセンタ」の中の「光データリレーサービス」を開始する予定です。これは観測衛星等が宇宙で収集した各種データを、静止軌道衛星を経由して地上へ高速伝送するサービスです。

これまでは観測衛星がデータを送る際は、宛先となる地上局の上空を通る5〜10分の間しか通信ができず、特にデータ量が大きい場合は送るのに時間がかかっていました(地球は約90分で一周)。

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Image: © Skyloom Global Corporation

しかし、光データリレーを使えば、3つの静止軌道衛星が中継ハブとなり、いつでもデータの送受信が可能となります。

──これまではそんな限られたタイミングでしか通信できなかったんですね。

Space Compass:そうなんですよ。よくアクション映画などで、衛星からの映像をリアルタイムで確認して"テロリストの拠点に突入する!"みたいなシーンがありますが、従来はとてもそんなに自由自在にデータを取得することはできませんでした。光データリレーサービスはそうしたリアルタイム伝送を可能にするのが特徴です。

宇宙のネットワークは、私たちの生活を支えるインフラになる

──宇宙統合コンピューティング・ネットワークが実現したら、私たちの生活はどのように変わりますか?

Space Compass:私たちが手掛けているのはあくまでインフラなので、あまり直接的に感じられる変化はないと思います。

しかし、観測衛星の精度が上がったり、宇宙センシングであらゆる情報が取得できるようになったりすることで、初めて地球を正確かつ客観的なデータで観測できるようになると思います。それによって私たち人類が抱えている自然災害や気候変動といった地球規模の問題に対応できる時代もやってくるはずです。

また、モバイルネットワークのカバレッジが広がることで、本当の意味でいつでもどこでも繋がる世界が実現できると思います。衛星やHAPSはあくまで補完的なものであって、全部のネットワークが宇宙や上空から提供されるわけではありません。ただ海の上や宇宙、災害が起こった地域などではこうした仕組みがうまく働いてくれるはずです。

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Image: Shutterstock.com

──最後に、NTTグループとしてどのような想いでこの宇宙プロジェクトに携わっているか教えてください。

Space Compass:「宇宙統合コンピューティング・ネットワーク」は宇宙に再び取り組むプロジェクトという側面を持っていて「なぜNTTがこの事業に?」というところから議論をしなければなりませんでした。

そこで宇宙業界のさまざまな動きをリサーチして思ったのは、たとえば宇宙基本計画では、日本の宇宙産業は新たな民間企業の参入と官民デュアルユース(民間および軍事用途の双方に使用できる)のインフラが求められているということでした。

また、日本の宇宙産業には、きらりと光る技術はあるものの、産業として世界の先端を行っているわけでもない、という課題もありました。

そこで、「これから5年後、10年後の未来を見据えて、そこに必要な計画を立てて投資を集め、実行していかなければ」と強く感じ、考えた結果がこの「宇宙統合コンピューティング・ネットワーク」です。

日本の電話会社から始まったNTTは、インターネットの時代に世界中の光ネットワークやデータセンターを構築し、あらゆる人間の活動範囲において、場所やモノをつないで来ました。これから訪れる宇宙新時代、人類の活動領域は成層圏、さらに宇宙までに広がります。

近未来の人類の宇宙での生活、その日々を変わらずつなぎ続けることがNTTの使命、と考えれば、宇宙統合コンピューティング・ネットワーク構想は必然と言えます。

とても壮大で、そんな事が本当に出来るのか?と思われるかも知れません。昨年はワールドカップが盛り上がりましたが、今の日本の宇宙産業は、かつてJリーグが発足した頃に近いと思います。「注目を浴びてはいるけど、実力的には世界で見ると遅れているよね。どうせ海外には勝てないでしょ」みたいな感じですね。

でも、サッカーはこの30年近くの時間をかけて、世界のレベルで戦えるまでに成長してきたじゃないですか。それなのにビジネス全般において、日本は世界で戦うということに対して「どうせ勝てない」みたいなマインドになってしまっている。

宇宙産業においては、そのようなマインドの中でも世界で戦える事業を作るんだという思いで仕事をしています。

NTTの宇宙への挑戦は、誰もが繋がる未来をつくる試み

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Image: Shutterstock.com

「NTTの宇宙開発」と聞くと、まだまだ先の話のように感じられるかもしれません。

しかし、プロジェクトに携わる皆さんのお話を伺って感じたのは、宇宙統合コンピューティング・ネットワークとIOWN構想は、決して夢物語や単なるコンセプトではなく、すぐそこにある未来だということです。それと同時に、非常に壮大な計画でありながらも、私たちの日常生活が一変するようなものでないという点に、インフラの大切さとそこに関わる人たちの矜持を感じずにいられませんでした。

ですが、地上の災害の影響を受けない宇宙ネットワークの整備は、私たちにいつか訪れるかもしれない「もしも」のときのリスクを大きく減らしてくれるはず。そして、私たちの安心・安全だけでなく、この国の将来への希望を作るかもしれない、極めて重要な取り組みであると感じさせられました。

Source: NTT R&D