イースター休場中の米雇用統計発表、日本市場直撃も
今週の市場関連のメインイベントは7日金曜日発表の雇用統計。ところが、当日、欧米市場はイースター休暇入りゆえ、週明けの日本市場を直撃する展開になりそうだ。米経済テレビ局は、雇用統計の時間帯のみ生中継する異例の布陣を敷いている。
注目の非農業部門雇用者数変化は、1月50.4万人増、2月31.1万人増と、いずれも強かったが、今回発表の3月分は20万人台前半と事前予測されている。仮に30万人以上が続くと、3カ月平均値で見ても強すぎる結果となり、利上げ継続論に拍車がかかるのは必至だ。
アトランタ連銀の独自の経済モデルは、直近の失業率3.6%が米連邦準備理事会(FRB)の予測値4.5%まで上昇するためには、今後3カ月で39万4537人の雇用者減少が必要と示している。今回の雇用統計では10万人台まで減らないと、3.6%というインフレ抑制には「良すぎる」失業率が、FRB予測の4.5%まで「悪化」しないことになる。
ちなみに、昨年5月にバイデン大統領が「インフレ退治、私のプラン」を米紙ウォール・ストリート・ジャーナルに寄稿したが、望ましい月次雇用者増は15万人と明示していた。
果たして、雇用増を10万人台に抑えることは現実的シナリオといえるか。
実は、先週3月31日金曜日発表の2月の米個人消費支出(PCE)物価指数(コア)は年率4.6%と、かなり落ち着いてきた。FRBが消費者物価指数(CPI)より重視するインフレ統計ゆえ注目に値する。
さらに今週に入り、3日月曜日に発表された3月の米サプライマネジメント協会(ISM)製造業景況感指数が5カ月連続で、好不況の節目とされる50を下回った。
追い打ちをかけるように、昨日4日に発表された2月の米製造業新規受注が2カ月連続の減少となり、設備投資が引き続き低調であることを印象づけた。
加えて4日発表されたJOLTSと呼ばれる雇用動態調査(2月)は1000万人の大台を割り込む993万件と、2カ月連続でマイナスとなった。この統計は、パウエルFRB議長も引き合いに出すことが多いので、やはり注目すべきデータだ。22年3月に記録した1203万件のピーク時には、失業者1人に2件近くの求人件数として騒がれたものだ。
この「ディスインフレーション(インフレ鈍化)」トレンドはホンモノか。過熱して、インフレ抑制に関しては最大の難敵扱いされてきた米労働市場にも、ついに緩み(スラック)が生じたのか。
市場の反応には、潮目の変化が感じられるものの、まだ、確信が持てない、という本音がにじむ。
JOLTS減少直後、株価が下落し始めたのだ。
これまでの事例では、経済統計が悪ければインフレ過熱感が薄らぎ、FRB利上げ観測は後退するとの読みで、株価は上昇するのが常であった。「悪いニュースは良いニュース」とされたのだ。
しかるに、今回は、悪いニュースが文字通り悪いニュースと市場では解釈された。なぜか。
米国経済リセッション(景気後退)入りが強く意識されている矢先の「悪いニュース」だからだ。スタグフレーションのシナリオも現実味を持って語られるほど市場センチメントは悲観的である。
その理由は、史上最速利上げで締め過ぎによる景気後退と、銀行不安で銀行規制が強化され、貸出基準が厳格化され貸し渋りが顕在化して景気を冷やす可能性が、共振しているからだ。
不況の前兆とされる逆イールド現象も、米10年債と2年債の利回り格差が、3月にはマイナス100bp(ベーシスポイント、1ベーシスは0.01%)=1%を超える水準から、一気にマイナス30bp台まで縮小していた。ところが、直近では、再びマイナス50bp前後まで再上昇している。市場は振り回され一喜一憂状態だ。
4日のニューヨーク(NY)債券市場では、JOLTS発表後、将来の景況感を映す10年債利回り水準と、政策金利に連動する2年債利回り水準が急落。比較すると、2年債の利回り低下が勝っていた。米金利先物の値動きから市場が織り込む政策金利の予測を求める「Fedウオッチ」によれば、5月利上げ見送り確率が、前日の42%から60%近くまで上昇。12月米連邦公開市場委員会(FOMC)での政策金利は、年後半の「利下げへの転換」により、0.75%下落確率が、前日の24%から36%にまで上昇。12月FOMCでの政策金利予測となると、年後半の「利下げへの転換」により、4.00%から4.50%のレンジ内まで下落する確率が約67%に達している。対して、3月FOMC時に発表されたFRB経済予測では、多くのFOMC参加者が、5%台前半を維持したまま年越しを予測していた。民と官の予測が、0.75%以上も乖離(かいり)するとは異例の出来事である。果たして、どちらが正しいのか。全ては、今後のデータ次第ということになる。市場の視界不良は4〜6月期にも晴れるまい。
なお、雇用統計は、データ収集に時間がかかるので、遅行指標とされ、特に、コロナ禍では、アンケート回収率も悪化して、振れも大きくなっている。
そこで、先行指標として、毎週発表される新規失業保険申請件数の4週平均値が重要視される。直近では、20万件の大台をやや下回るので、どちらかと言えば好感されていることを追記しておく。
豊島&アソシエイツ代表。一橋大学経済学部卒(国際経済専攻)。三菱銀行(現・三菱UFJ銀行)入行後、スイス銀行にて国際金融業務に配属され外国為替貴金属ディーラー。チューリヒ、NYでの豊富な相場体験とヘッジファンド・欧米年金などの幅広いネットワークをもとに、独立系の立場から自由に分かりやすく経済市場動向を説く。株式・債券・外為・商品を総合的にカバー。日経マネー「豊島逸夫の世界経済の深層真理」を連載。
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