資産100億円超のカリスマ投資家 新興の大化け株に照準
億超え投資家の大化け株投資(1)
「株式市場を見渡すと、しっかりと業績を伸ばしている中小型株や新規株式公開(IPO)株が出てきている。相場の方向性にとらわれずに、まだ芽が出ていない割安な有望株を見つけたい」
こう話すのは個人投資家の片山晃さん。得意とするのは、「中小型の成長株が頭角を現し始める初動を捉えて集中的に投資をする」という手法だ。2005年に元手65万円で株式投資を始め、わずか12年で160億円もの資産を築いたカリスマ投資家でもある。
だがこの希代の投資家でも、株式投資を始めた当初は挫折を経験した。05年はライブドア・ショックが起こる1年前で、デイトレードが佳境に入っていた頃。片山さんも自然とデイトレが投資スタイルになった。この投資法は、保有株を翌日に持ち越すリスクを取らずに、成果がすぐに目に見えるメリットがある。06年末に専業投資家に転身してから1年足らずで、資産は200万円から1000万円に増えた。
その後、「デイトレーダーとしての限界を感じた」のは07年頃。1000万円から資産が増えず、大敗も経験した。投資家のオフ会で何気なく「ネットエイジ(現ユナイテッド)って(トレードが)ほんと難しいですよね」と話したところ、相手の参加者はこの銘柄で負けたことがないという。「なんとかして勝たなければ」と思った矢先にリーマン・ショックが起きた。
そこから活路を見いだしたのが割安株の長期投資だ。株価が急落している局面で「今買っておけば儲かる株もあるかもしれない」と感じた。元々企業業績に関心があり、新聞や『会社四季報』を読む習慣があった片山さん。「すべての開示情報に目を通す」という並々ならぬ努力はこの頃から始まった。
順当に投資を続ける中でも資産拡大に大きく貢献したのは、医療器具輸入商社の日本ライフラインだ。「収益性の高い自社開発製品の伸びが見込めるのに株価が割安に放置されている」と見て集中投資をしたところ、16年には株価が一時、前年比で約6倍に上昇。資産100億円の大台突破に大きく貢献した。
足元でも大化け株は存在
日経平均株価は3月4日に史上初めて4万円の大台に乗せた。日本株相場が大型株優位の展開となる中、23年4〜12月期の決算発表を通過して、「優良な中小型株を見直す動きも出始めている」と片山さんは見ている。
例えば、昨年12月に上場した人工衛星開発のQPS研究所は、2月に一時、初値比5倍まで上昇した。「投資家の目が大型株や株主還元銘柄ばかりに向いていた傍らで、多くの人たちが見逃していた大化け株も存在していた」
決算やマクロニュースに注目
大化け株の卵を見つけるには、「投資家があまり注目していない中小型株を常にウオッチしながら、世の中の次のトレンドが何かを考え続ける必要がある」と片山さん。情報源は、個別企業の決算やマクロの経済ニュースなどだ。
一例は、昨年11月に上場したJapan Eyewear Holdingsだ。「金子眼鏡」と「フォーナインズ」が統合・設立した企業で、眼鏡の製造・販売を手掛けている。
「コロナ後の訪日外国人(インバウンド)需要の回復と株高による資産効果の拡大で、足元では高額消費に追い風が吹いている。同社の眼鏡は他社と比べて高額だが、ジャパンクオリティーを武器に売り上げの拡大を期待できそうだ」
実際、日本政府観光局の統計によると、1月の訪日客数はコロナ禍前とほぼ同水準まで回復している。「同社の粗利益率は77%(23年1月期)と高く、売れると儲かる事業構造。海外の受注拡大も見込めるだろう」
次のトレンドはeKYC
また、世の中を変えるトレンドとして片山さんが注目するのは、人工知能(AI)技術を活用して個人を認証するeKYC(電子的本人確認)だ。
「証券口座ひとつとっても、これまで紙で開設していたのが、顔認証などを用いることでスマホ1台で開けるようになった。企業にとっても郵送費、人件費などのコストを抑えられるだけでなく、開設までのスピードの速さは顧客獲得のための競争力になる」
そのeKYCを手掛ける企業として片山さんが今年投資したのが、ELEMENTS。「既に大手銀行など多くの企業では同社のサービスが導入されており、個人認証事業の増収率も高い。22年に最終赤字で上場したことで株価も割安だ」
割安さの観点で有望視する銘柄には、富士通系のシステムインテグレーターの大興電子通信も挙がるという。
「14年3月期にシステム開発で不採算案件が発生して赤字に転落したが、急速に業績が回復。15年に実施した第三者割当による新株予約権付社債の発行で希薄化した株式を、一部解消することを目的に自社株買いを実施しており、注目している。
(井沢ひとみ)
[日経マネー2024年5月号の記事を再構成]
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