東証が低PBR改善要請を強化 中小型株に波及も
新NISA元年の主役 ビッグチェンジ銘柄(5)
2024年も引き続き注目すべき日本株市場のテーマが低PBR株だ。低PBR株とは「株価が低いために時価総額が会社の保有資産に比べて安い株。特にPBR1倍未満は、上場しているより解散して資産を株主に配分した方が株主にとってはいい状態」を意味する。このためPBR1倍割れは企業にとって「恥ずべき事態」と指摘される。
ところが、その状態はなかなか改善されてこなかった。そこに踏み込んだのが東京証券取引所だ。プライム・スタンダード市場に上場する全企業に「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」を23年3月に要請。PBR1倍割れの解消につながる経営改革案をまとめて、それを開示することを求めた。
これを受け、大型株を中心に経営の改革案を開示する動きが広がった。その結果、日経平均株価とTOPIX(東証株価指数)の構成銘柄の平均PBRは、23年前半に上昇した。
そもそも「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」が要請された背景には、22年4月に行われた東証の市場区分見直しがある。市場区分の見直しは、上場企業が企業価値向上に取り組みやすい環境をつくるのが目的の一つ。だが、「どの企業がどの市場に上場するのか」といった話題が中心となり、企業価値向上という目的がかすんでしまった。
そこで東証は22年7月に有識者によるフォローアップ会議を設置。市場区分見直しの実効性を議論したところ、課題として指摘されたのがPBR1倍割れ企業の多さだった。こうした実態から、会議では収益性や市場の評価などを意識した経営者の意識改革が必要だとの声が上がった。そこで出されたのが冒頭の要請だ。
さらに、増配や自社株買いを行って一時的にPBRやROE(自己資本利益率)の改善を図るのではなく、継続的に資本コストを上回る収益性を実現する「抜本的な取り組み」を要請した。
2月末時点で開示している企業の状況を見ると、PBRの水準では1倍割れ企業の方が、時価総額の分布では時価総額が大きい企業の方が開示率が高い。
「開示だけを要請したわけではなく、取締役会レベルで現状を分析し対策を考えることからお願いしている。要請から1年でこれだけの企業が開示したことは、一定の進展だと考えている」と東証の上場部課長の門田耕一郎さんは話す。
東証は2月に、参考になる企業の取り組みをホームページで公開。その中の1社、あすか製薬ホールディングスの例を見ると、ROEは中期経営計画の目標の8%を超えているが、PBRが1倍に達していない状況を自社で分析。成長戦略とキャッシュアロケーション(資産の配分)を明確にして、政策保有株の縮減と株主還元強化を表明した。結果、株価は上昇基調に転じた。
この4〜5月には本決算の発表が続く。中計の発表がよくあるこの時期は、併せて改革案が開示される例が多くなると予想される。
開示された内容を吟味
「開示率を見るフェーズから、開示内容に焦点を当てるフェーズへこれから移っていくだろう」と門田さんは話す。
焦点が開示率から開示内容に移行するのに伴って、低PBR銘柄で値上がり益を狙う投資でも、大型株から中小型株へと投資対象を広げる戦術転換が求められるだろう。発売中の日経マネー24年6月号「ビッグチェンジ銘柄」特集では、「今からでも買える低PBR」のお宝株を紹介している。
【この連載の過去記事】
[日経マネー2024年6月号の記事を再構成]
(佐藤由紀子)
著者 : 日経マネー
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