「トー横以外にも居場所」 深夜、池袋のマンションに集まった若者たちが「本当に助かる」と話した理由

2023年10月29日 06時00分
 虐待を受けるなど家庭や周囲の大人を頼れない若者に、深夜から未明にかけての居場所を提供している支援団体がある。NPO法人サンカクシャ(東京都豊島区)で、繁華街で犯罪に巻き込まれるリスクを減らす狙いだ。深夜・未明の提供は珍しく、若者の寂しさを埋める大切な場所になっている。(五十住和樹)

「ヨルキチ」に集まる若者たち。「1人でいるより楽しい」「ここに来る意味はある」などと語る=東京都豊島区で

◆月2回、夜10時から朝5時まで

 「ほぼ毎回来てる。雑談が楽しい」。東北地方出身の男性(22)が笑顔を見せた。サンカクシャが月に2回、夜10時から朝5時まで開く居場所「ヨルキチ」(同区上池袋4)。ビルの一室でカレーの香りが漂う20畳ほどのリビングでは、数人の若者が漫画やゲームを楽しんだり、話し込んだりしていた。
 男性は両親から暴力を受け続け、昨年末にリュック一つで家出。東京・上野のネットカフェで過ごしたが所持金が尽き、約2週間公園で野宿した。「丸5日間水だけ」という時にネットで同法人を知り、「ここなら頼れる」と運営するシェアハウスに入った。今は仕事を探しながら劇団に入り、「役者になる夢に一歩近づいた」と希望を語る。
 別の男性(20)は高校を中退し「親とは暮らせない」と家を出て友人宅などを転々とした。ヨルキチは「新しい仲間ができる良さがある」。今年5月から同法人のシェルター(個室)で暮らす男性(17)は雑談やゲームが楽しみだといい「精神障害で退院後に頼れる場所がなくて。自分にとってはとても大切な場所。本当に助かる」と振り返った。

NPO法人サンカクシャ代表理事の荒井佑介さん(サンカクシャ提供)

◆支援が途切れる課題を痛感

 サンカクシャは2022年3月から、午後2時~9時の居場所を開設した。同10月に試験的に夜も開くと日中より多く若者が集まり、今年4月からは定期開催にした。利用者は22歳前後の男女約15人。代表理事の荒井佑介さん(33)は「泣きながら生い立ちを話し出す子もいる。自分の中の焦り、不安を聞いてほしいのだと思う」と言う。
 学生時代に若年のホームレスを支援した際、中学卒業や高校中退後に放置されて支援が途切れる問題を痛感した。19年5月にNPOを設立し若者の支援を始めると、「今日の寝床がない子が多かった」。ネットカフェや路上で薬物や闇バイトに巻き込まれ、交流サイト(SNS)で知り合った男性と過ごし危ない目に遭う―。若者からそんな夜の体験を聞いた。
 東京・歌舞伎町の通称「トー横」では近年、若者の事件やトラブルが相次ぐ。荒井さんは「トー横以外にも居場所があると知ってほしい」という思いで、住まいの確保や就労の支援などを続けてきた。「未明の時間帯は自殺が多い」とも話し、夜間・未明の居場所の重要性を訴える。

◆孤立や孤独を抱える若者に重要

 若者の居場所の問題に詳しい放送大名誉教授・宮本みち子さん(76)=社会学=の話 夜間・未明の居場所提供は孤立や孤独を抱える若者に重要な意味がある。オンラインでなくリアルでの開設は仲間づくりにつながり、ふだんは言えないことも話せるようなスタッフとの信頼関係もできる。

 若者の「居場所」支援 10〜30代を対象に安心して過ごせるリアルやオンラインの居場所を提供する民間団体が増えている。繁華街で軽食の提供や携帯電話の充電などをしながら相談に乗り、必要に応じて住まいや生活保護の受給支援をする団体もある。こども家庭庁は、団体やその活動内容について初の全国調査を始めている。

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