2030年のEV市場に生き残っていられるか? 日産・ホンダ連合が闘うべき敵の正体
2024.03.29 デイリーコラム2社を動かした異なる理由と共通の問題意識
2024年3月15日、日産自動車と本田技研工業は、自動車の電動化・知能化に向け、戦略的パートナーシップの検討を開始する覚書を締結したと発表。日産の取締役・代表執行役社⻑・最高経営責任者の内田 誠氏と、ホンダの取締役・代表執行役社⻑の三部敏宏氏が、そろって記者会見に臨んだ(参照)。
今回の覚書は秘密保持のための基本合意書(MOU)で、「これから詳細を話し合うことを決めた」という事実以上のことはなにもない。詳細はワーキンググループを立ち上げ、エンジニアを交えて論議を進めていくという。われわれとしては今後の発表を待つほかないが、ひとまず今回の会見で明らかになったことを整理しておこう。
大枠は以下の3点だ。
- ミッションは電動化と知能化
- ターゲットはバッテリーとe-Axle、ソフトウエアプラットフォーム
- ビジョンは2030年にトップランナー(トップ集団の一員)であること
両社が検討を開始するに至った背景としては、いわゆる“規模の問題”と、新興メーカーのスピード感に対する脅威が挙げられる。日産の内田氏は「電動化、知能化に必要な技術開発をすべて自社でやることは厳しい」「新興メーカーが革新的な商品とビジネスモデルとともに参入し、圧倒的な価格競争力やスピード感で市場を席巻している」と述べ、ホンダの三部氏も「電動化、知能化の領域は台数増によるコスト低減効果が非常に大きい」「中国や韓国のバッテリーメーカーは巨額の投資を続けていて、グローバルな競争力がないと生き残れない」と語った。
あえて言えば、コロナ禍からの回復に時間がかかっている日産はスピード感を強く意識し、EV販売で苦戦が続いているホンダは投資規模にこだわっている印象だが、電動化と知能化を強力に推進しなければ、2030年市場で存在感を発揮できないという危機感は共有している様子だ。また、これまでは日本企業が得意な“すり合わせ”の技術など過去の蓄積でカバーできていたが、それだけでは今後は厳しいという趣旨のコメントもあり、そこも共感し合えるポイントだったのかもしれない。
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古い標語を使っている場合ではない
気になるのは、両社とすでに手を結んでいるルノー、三菱自動車工業、ソニー(ソニー・ホンダモビリティ)、ゼネラルモーターズ(GM)などの存在だ。
ルノー・日産・三菱アライアンスは、2022年にEV専用共通プラットフォームや新型EVなどに関して協業を打ち出しており、2023年2月には、ルノーと日産がインドにおけるEV事業への大型投資を発表している。同年末にはルノーと日産の資本関係が見直されたが、それと合わせ、ホンダとの協業はこれら一連のプロジェクトにどういった影響を及ぼすのだろうか?
また、ホンダとGMは量販価格帯のEVの計画こそ頓挫したものの、燃料電池車では合弁会社を設立して協業を続けている。ソニー・ホンダにしても、車両製造のキモがホンダの技術であるいっぽうで、電動化と知能化はソニーの知見を生かせる領域だ。さらには日産もホンダもティア1以下、多数の協力会社を擁している。投資規模を大きくするには仲間が多いほうがよいが、「船頭多くして船山に上る」ということわざもある。現状ではなにが最適なのか、正解なところはおそらく誰にもわからないだろう。
いま確かなことは、日産とホンダは投資負担の大きなバッテリーやe-Axleに関して手を組み、単独では成し得ない規模の投資とスピード感ある開発の実現を目指すということだけ。企業風土の違いは織り込み済みで、これから電動化と知能化に関する技術情報を開示し、相互の強みを生かす方策を模索することになるのだろう。
この場に及んでひとつ提案したいのは、「100年に一度の大変革期」という枕ことばからの卒業だ。この表現が使われ始めて、そろそろ10年が過ぎる。各社とももがき続けた10年だったかもしれないが、BYDやテスラはその間にEV市場をけん引するルールメーカーとなり、既存の自動車メーカーは新興勢に追われる立場となった。10年前の標語が今なお自身を鼓舞する言葉として機能しているとしたら、それこそがスピード感のなさの表れであり、両社が闘うべき本当の敵なのではないか。
2030年まであと6年。今回の覚書締結は「開発期間も含めると、動くのであればいま」(三部氏)という判断だった。国内2社によるパートナーシップで2030年市場を沸かせるために、6年間を駆け抜けていってほしい。
(文=林 愛子/写真=日産自動車、本田技研工業/編集=堀田剛資)
林 愛子
技術ジャーナリスト 東京理科大学理学部卒、事業構想大学院大学修了(事業構想修士)。先進サイエンス領域を中心に取材・原稿執筆を行っており、2006年の日経BP社『ECO JAPAN』の立ち上げ以降、環境問題やエコカーの分野にも活躍の幅を広げている。株式会社サイエンスデザイン代表。