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図1 ニデックの2023年度の決算会見
図1 ニデックの2023年度の決算会見
同社が2024年4月24日に開催し、永守重信グローバルグループ代表と岸田社長が電動アクスル事業の戦略転換について詳細を語った。(出所:日経クロステック)
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 「結論は、最後はうちが一番になるということだ」──。ニデックの永守重信グローバルグループ代表(以下、永守代表)が、電気自動車(EV)の駆動用モジュールである電動アクスル事業の将来についてこう述べた(図1)。同社は電動アクスル事業を次の成長の柱に据えたものの、当初描いた計画通りに進まず、赤字を垂れ流している。だが、競争環境が正常化すれば、ニデックが勝ち残ると永守代表は語った。

 同社は2023年1月に、電動アクスル事業の戦略をシェア重視から収益性重視へと大きく転換(図2)。このための構造改革費用として、598億円を2024年3月期(2023年度)決算に計上した。これが足を引っ張り、ニデックの営業利益率は6.9%にとどまった。同じく構造改革「WPR-X」を実施して500億円を投じた前年度(2022年度)の営業利益率である4.5%よりは回復したものの、営業利益率が10%を優に超える家電・商業・産業用モーター事業や機器装置事業など、業績面で好調な事業の足を引っ張っている状態は変わらない。

図2 電動アクスル事業の戦略転換
図2 電動アクスル事業の戦略転換
年間販売台数を増やしてシェアを奪う戦略から収益性を重視する戦略へと大きく変えた。その分、構造改革費用がかさみ、2023年度の電動アクスル事業は大幅な赤字を計上した。(出所:日経クロステック、イラスト:穐山里実)
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「レッドオーシャン」となり構造改革

 ニデックが2年連続で電動アクスル事業の構造改革を余儀なくされたのは、中国市場におけるEVの乱造が主な理由だ。EVメーカーが乱立し、市場に大量のEVが投入されて「価格破壊」が発生。結果、「誰も稼げないレッドオーシャン(過当競争状態)」(同社)に陥っているというのだ。

 ニデックの岸田光哉社長は今回の構造改革について、「中国のどのサプライチェーンのどのプレーヤーも利益を出していない特殊(異常)な状況。それに伴う構造改革である」と説明した。しかも、このレッドオーシャン状態は今後もしばらく続いていくとニデックは見る。今回の構造改革はそれを踏まえて実行したものであり、人事も刷新。電動アクスル事業が今後のニデック全体の「業績に与える影響が最少になるような体制を整えた」と岸田社長は胸を張る。

 この構造改革により、電動アクスルの開発方針も変わる。

 従来は、電動アクスルを開発する上で、顧客と製品、そして技術を考慮していた。すなわち、顧客をどこにするか、どのような製品をどのような技術を基に開発するかについて、多くの選択肢から選んで開発していた。ところが、1機種を開発するのに30億~40億円程度かかり、しかるべき人員も要するなど経営リソースを圧迫する。

 これに対し、新しい開発方針では顧客を絞り込む。ニデックが合弁企業を構える中国・広州汽車(GAC)と、同社(GAC)が合弁を組んでいる日系企業、そしてニデックと欧州Stellantis(ステランティス)との合弁会社であるフランスNidec PSA emotors(日本電産PSAイーモーターズ:NPe)である。その上で、効率向上を追求した電動アクスルの開発を進めていく考えだ。

 中でも、事業の安定を支える基盤となるのがNPeである。「どこに売るのか、何を造るのか、どのような技術を開発するのかについて、Stellantisとの間で100%アライン(調整)が取れている。私はステランティスのカルロス・タバレスCEOに直接会い、コミットメント(約束)を確認し合った」と岸田社長は説明。造る製品が決まっているため、ニデックが得意とする生産技術を生かして歩留まりを向上できる利点があるという。加えて、2024年後半からはNPeに、部品であるステーターの供給も開始する予定だ。

2025年度の目標は400万台から82万台に

 EVの需要が急増する境目である「分水嶺」については、当初の計画から永守代表は「5~6年は遅れる」、岸田社長は「5年は先送りになる」と見る。これまでニデックは分水嶺を2025年度と予測していたため、それを2030年ごろに後ろ倒しした格好だ。

 収益性重視の戦略転換により、電動アクスルの年間販売台数に関する目標も“ご破算”となった。戦略転換前は2025年度に年間400万台、2030年度に年間1000万台の電動アクスルを販売する目標を掲げていたが、販売台数を追求する旗は降ろす。

 実際、2024年度にニデックが見込んでいる年間販売台数は、GACとその日系企業を合わせて約15万台、Stellantis向けで約67万台、合計で82万台程度だ。当初の予定から300万台を超える年間販売台数へと下方修正した格好だ。

 ニデックには事業を世界一に導く「勝利の方程式」がある。VA(価値分析)などを駆使し、コスト削減を極めて高いシェアを奪う。それによって手にした量産効果を最大限に生かし、さらにコスト競争力を高めて、圧倒的なシェアを獲得する。こうして、世界一の座を奪う方法だ。

 果たして、電動アクスルにはこれが通用しないということか。